五皿目、 ――そして今に至る 1
俺の前で卓袱台の上に横たわる卵は、俺がキンダイチから盗んだものだ。
暫く喫茶店の中で待ってみたが、狐目は現れなかった。
返すことも届け出ることもできず、俺は仕方なく鞄ごと家へ帰ってきた。
「……本当にやっちまった」
再び呟く。
十三万円は踏み倒され、俺は窃盗犯になった。
江戸時代じゃあ十両盗んだら死罪だったと言う。
現代の貨幣に換算すれば、四十万円くらいだっけ?
この卵が十三万円相当として、まだ死罪は免れたな。
そんな愚にもつかないことを考えてでもいないとやりきれない。
卵を、そっと指先でつついてみた。ことことと揺れる。
生きてるんだろうか?
何の卵かは知らないが、温めなくて大丈夫だろうか?
狐目は何も言ってなかったし、キンダイチも温めているような様子はなかったから、勝手に大丈夫だろうと判断しておく。
「……はぁ」
帰宅してからもう何度目かも分からぬ溜め息を零す。
同時に、空腹感も感じた。
そういえばコーヒーを腹に入れたきりで、昼飯を食い損ねていた。
時計は、じき午後二時を指そうとしている。
何か食べるか。
鍋に昨日の残りのカレーがあったことを思い出した。
あれでいいや。