五十四皿目、 ――そして再会 1
――
コンパスはもう不要だ。
双眼鏡は使うだろうか?
もう一つ、教授がしまい込んでいた白い短剣。
これからはこいつが必要になる。
大型の頑丈な檻と、同じく頑丈なロープ。難燃性素材でできた大きな布と、防護盾が二つ。
それから、できれば使いたくはないけれど、丈夫な投網。
他にも工具や測定機材などを積み込んで、鹿島は若手研究員二名と共に白いバンへと乗り込んだ。
鹿島が運転席、研究員は後部座席。助手席には、赤い×印で目的地が記された住宅地図がある。
それこそ、奪われた竜が閉じ込められている場所。
「生まれたばかりとはいえ、相手は竜だ。暴れ出されたら手に負えない。
確保の際は慎重に行動してくれ」
同時に、竜とはいえ生まれたばかりの赤ん坊だ。
手荒にならぬよう注意もしなければならない。
静かに頷く研究員。
エンジンをかけ、アクセルを踏み込む。
タイヤがアスファルトを噛んで、車が走り出した。
場所さえ分かっていれば、然程時間はかからない。
何度もシミュレートした道を通って、住宅街に入る。
公園の脇を通り過ぎ、地図を確かめてから狭い路地を曲がった。
目的のアパート間近で、道路の端に車を止める。
距離で言えばすぐ側だが、アパートからは他の建物が邪魔で直接視認できない位置だ。
道幅も、車一台が何とか通り抜けていけるくらいは開けておいた。
近隣住民に通報されて、レッカー移動されるようなことにはならないだろう。
研究員が、計器の画面を見て言う。
「主任、凄い数値です」
「だろう?今からその中心に行くんだ」
鹿島は、短剣と網を持って車を降りた。
研究員二人はそれぞれ、測定機材や防護盾やらを抱えて、鹿島の後を追った。
アパートは静かなものだった。
どの部屋もしんと静まり返っていて、住人の気配を感じない。
出かけているのかもしれない。
その方が好都合だ。巻き込まずに済む。




