五十一皿目、 ――最後の日常 1
ガチャリ、と鍵を開けてノブを回す。
「ただいまー」
と声をかけるのは、もはや無意識の行為になっている。
靴を脱いで上がるまでの間に、どたどたと奥から二匹の姿が駆けてくる。
「おー、出迎えかお前ら゛……っ!」
飛びついてきた。体当たりを食らった。
小さくはない二つの重みが、俺の腹にまともにぶつかる。
いい一撃だった。
鳩尾の辺りを押さえてうずくまる俺の周りを、クロウとシロウはぴぃぴぃ声を上げて忙しなくぐるぐると回る。
「今日はやけに元気だな……」
膝の上によじ登り、耳元で喧しく喚き立てるその鳴き声の意味を、俺は理解できない。
さぞかし退屈していたか、もしくは腹でも減っているのだろうと思った。
「はいはい、分かった分かった。
近所迷惑だから静かにしろ」
まとわり付く二匹を両腕で抱え、部屋へと運ぶ。
担ぎ上げてしまえば、二匹はいつものように大人しくなった。
甘える時にそうするように、俺の顎へ頭を擦り付けてくる。
「そういえば、今日は“おかえり”は?」
「おかえりー」「おかーりー」
腕の中から答える。
だいぶ発音も上手くなったものだ。
まだほんの少しの単語だけだけど。
この調子ならすぐに幼稚園児くらいの語彙は身に着けられそうだ。
そうしたら、もっと賑やかになるのだろう。
「何して遊んでたんだ?随分散らかしたな」
二匹を床に下ろしながら、つけっ放しだったテレビを消す。
散乱した玩具を隅にどかし、卓袱台の上に置きっ放しだったおやつを片付ける。
「マメ!」「ピナツ!」
「駄目、もうじき晩御飯だから。今日はカツカレーだぞ」




