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箸休め、
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気配はゆっくりと遠ざかって行った。
つい先程まで巣の前をうろうろしていたが、侵入できずに諦めたようだ。
敵の足音が離れていく間も、兄弟は耳をそばだてて息を潜めていた。
やがて敵の匂いが遠く離れてしまってから、ほっと息をつく。
何故この場所が知れたのだろうと思った。
この巣はとても安全だった筈だ。
知る限り、一度だけ父が敵のにおいをつけて帰ってきたことがあるが、
それはきっと父が敵と争って打ち倒したからに違いない。
父に敗れたから、今度は父の居ない隙を狙ったのだろうか?
きっとまたやって来る。そんな気がした。
その時には、今度こそ戦わねばなるまい。
隣で、弟はまだ身を強張らせている。
不安そうに額を擦りつけて来る弟を、宥めるように翼で撫でてやった。
父がいれば、こんな不安な気持ちにはならないのに。
父はまだ帰らない。
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