五十皿目、 ――追跡行 5
明かりはついていないけれど、電気のメーターは僅かずつ回っている。
そっと扉に耳を押し当てる。
テレビのものらしき音声が聞こえたが、人の気配は無かった。
(居ないか……)
ドア横に、明り取りの窓があった。
格子がついていて侵入はできないが、換気のためだろうか、ほんの少しだけ開いている。
覗き見れば、室内の様子が窺い知れた。
窓のすぐ向こうはキッチンだ。
その奥に部屋があって、テレビはそこに置かれているらしい。
座布団や新聞紙が放り出されているのが見える。
同居人が居るような様子もなく、独り暮らしなのは間違いなさそうだ。
更に奥にもう一部屋あるようだが、襖が閉じていて中は知れない。
そこに竜がいるのだろうか?
(この辺にしておくか……)
あまりじろじろ見ていても、また見咎められる。
部屋の前を離れて、一階へと戻った。
がちゃりと103号室の扉が開いて、先程の婦人が顔を出した。
表札に白井と名札があるのが見えた。
「新垣さん、いらっしゃった?」
「留守みたいです。また今度お邪魔します」
これ以上長居はするべきでない、と鹿島は思った。
不審に思われては再訪も難しくなる。
大人しく今日は帰ろう。
盗人の住処を見つけただけでも十分な収穫だ。
本格的に竜を取り戻すつもりなら、もう少し準備しておいた方が良い。
白井夫人に会釈して、鹿島はアパートを離れた。
大通りに出てから、アパートの位置を地図に大きな×印で記す。
次回からは、この辺りまで車で来てもいいだろう。
「さて、後はどうやって取り返すか……だな」




