四十八皿目、 ――追跡行 3
双眼鏡をリュックにしまい込み、鹿島はそろりとアパートに近付いた。
見る限り、どこにでもあるような普通のアパートだ。
築二十年といったところか。
外階段の二階建てで、各階四部屋ずつの造りになっている。
表札を見る限りでは、三つほど空きがあるようだ。
裏手に回る。
各室に小さなベランダがついていて、いくつかの部屋には洗濯物が干してあった。
アパートの周りは、低いブロック塀に囲まれている。
大家が育てているのだろうか?プランターの花と、背の低い木が植えられていた。
ぐるりと一周して戻ってくる。
表からもう一度各部屋を眺めるが、静まり返っていて人の気配は無い。
このどこかに竜がいることは間違い無いが、さてどこかと言うと、それを調べる手段は無いのだ。
双眼鏡は役に立たない。
アパート全体が蜃気楼のように歪んでいて、細かな造作すら分からない有様だ。
コンパスは……駄目だ。
距離が近すぎて、針がふらふらと揺れている。
さてどうしたものか、と鹿島が溜息を零した時、
「何か御用?」
声を掛けられた。
慌てて振り向く。
白髪の婦人が、買い物帰りだろう手提げ袋を片手に、こちらを窺っていた。
(しまった。住人に見られた)
下手な誤魔化しをするのもまずいと思い、鹿島は帽子を脱いで婦人にぺこりと頭を下げる。
「すみません、実は動物を探しているんです。
この辺で大きなトカゲみたいな生き物を見ませんでしたか?」
まさか竜を探しているとは言えない。




