四十五皿目、 ――再び、B面 5
一休みついでに、鹿島は地図を広げた。
最初の目的地とした交点の辺りには大分近付いている。
下りに変わった坂を少し下りた位の位置だ。
そろそろコンパスを頼りにしようか。
小さく畳んだ地図を右手に、ペットボトルはディパックの側面のポケットに突っ込み、左手でコンパスを眺める。
「真っ直ぐ道路沿いって感じじゃないな」
どこかで路地に入らなくてはいけないだろう。
針が示すのは現在地からの直線方向だけなので、カーナビのように道順まで教えてくれる訳ではない。
どの道を行くべきかは、鹿島自身の判断だ。
下手に入り込むと、迷って無闇に行ったり来たりする羽目になる。
そのための住宅地図である訳だ。
「この方角だと、坂の下までは行ってみるか」
土地勘の無い場所を歩くのだ。
なるべく分かり易い道が良いと、鹿島は目印の多そうな広い道路を選んだ。
地図で見れば、その道路は住宅街を貫いて真っ直ぐに伸びている。
先では商店街を掠めて、私鉄線の駅前に繋がっていた。
鈍行と準急が止まる駅だ。
鹿島は、盗人たる彼に逃げられた時のことを思い出す。
駅舎に飛び込んだ彼は、そのまま電車に乗ってこの駅まで来たのではないだろうか。
そして、もしかしたら今も、隠れ家に潜んでいるのかも知れない。
木陰を出る。
酷い暑さは変わらないとは言え、下り坂は上りよりも遥かに楽だ。
そういえば静かだな。と思ったら、蝉の声がしないのだと気付いた。
木の真下に居たというのに。
あまりに気温が高いと、蝉も鳴かなくなると聞いたことがある。
この猛暑に蝉も元気が無いのかと、微かに笑いが漏れた。




