四十四皿目、 ――再び、B面 4
鹿島は、地図を片手に住宅街を歩いた。縮尺の大きな住宅地図だ。
もう片方の手には、コンパス。
まずは最初の地図につけた交点の辺りまで行ってみよう。
そこから、コンパスに従って竜が潜む場所を探すつもりだった。
平日の昼間、時刻は午後二時。
照りつける日差しは地獄のようだが、表を歩いている住民が少ないのはとても助かる。
うろうろしていても見咎められることはなさそうだ。
鹿島の出で立ちは、Tシャツにトレーニングウェアの上下、ジョギングシューズに小振りなディパックと、一見してウォーキングか何かの最中に見えるように気を使ってあるが、人目に触れぬにこしたことはない。
「しかし暑いな」
顎から滴る汗をタオルで拭って、ぬるくなったペットボトルの水を飲んだ。
二階建てより高い建物の殆どない住宅街では、日陰も少ない。
アスファルトから照り返す熱気がじりじりと足元を焦がして、フライパンで炙られているような気分になった。
見上げれば、ゆらゆらと揺らめく陽炎。
鹿島が歩むにつれて、逃げ水が坂の上へと遠ざかっていく。
コンパスに目を向ければ、金色の針は太陽の下できらきらと輝いて一点を示し続けている。
その先に、確かに鹿島の求めるものがある。
気合を入れて炎天下の坂道を上り切った鹿島は、その天辺で見つけた木陰で一息入れた。
さあっと吹き抜けていく風が心地いい。
丁度水を飲み干してしまったので、折り良く見つけた自動販売機でミネラルウォーターのペットボトルを買う。
ちらりと嫌なことを思い出した。
以前、駅で卵を盗まれたことだ。
多分これから先も、自販機で何かを買う度に思い返すのだろう。
つくづく忌々しい。
この辺りはマンションが少なく宅地が多い。
そのせいかコンビニすら近くには無く、買い物をするにはショッピングセンターまで戻るか、大きな道路に面した辺りまで出る必要がある。
民家も途切れたこんなところにぽつんと自販機が置かれているのは、つまりはそういう需要が有るからなのだろうと想像できた。




