三十三皿目、 ――舞台袖或いは物語のB面 6
とはいえ、更なる情報が得られる機会を見過ごす訳にもいかない。
「行くだけ行ってみるか」
無理のないところで引き上げればいい。
針の向きに注意しながら、車を走らせる。
公園を過ぎた所でそのまま帰路に着こうと、そう考えていたのだが。
しかし、事は思ってもみなかった方へ転がり始めた。
針がまた傾きを増している。
つい先程まで北を指していた先端が、ゆらゆらと北西へ向き始めている。
そちらにあるのは、緑地公園の敷地だ。
鹿島は車の速度を落とした。
現在地は、住宅街と公園の間を走る道路。
どうやら針が示しているものは、完全に公園の敷地内にあるようだ。
車が進むに連れ、見て分かる程に針の先端は西へと倒れてゆく。
間違いない。公園の中、それもすぐ側に竜はいるのだ。
鹿島はすぐさま道路脇に車を止めた。
コンパスと最低限の荷物だけを抱えて降りる。
その足で、急ぎ公園へと駆け込んだ。
何という幸運かと思った。こんなに早く竜を発見できるとは。
緑地公園と言うだけあって、中は鬱蒼と木が繁っていて暗かった。
遊歩道や広場などの開けた辺りは明るいが、木々の枝葉が作る木陰ではひやりと空気も湿っている。
蝉がそこかしこで鳴いていた。ジーワジーワとがなり立てる声が五月蝿い。
奥には噴水もあるようだ。途中の案内板にそう書いてあった。
鹿島は手元のコンパスを見ながら、なるべく木の多い場所を選んで森を進んでいった。




