三十一皿目、 ――舞台袖或いは物語のB面 4
駐車違反を取り締まっている最中の警官が、助手席の窓からこちらを覗き込んでいた。
鹿島は窓を開けた。
「何でしょう?」
「すみません、ここは駐停車禁止区域なんです。車を移動させてもらえますか?」
「それはすみませんでした。地図を見てたんです。
すぐにどかします」
地図を助手席に放り出し、エンジンを掛ける。
警官が車から離れたのを確認して、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
バックミラーの中で小さくなっていく警官の姿が見えなくなってから、鹿島は小さく溜息をつく。
卵を盗まれた時も、警察に頼れたら楽だったかも知れない、と思った。
流石に無理だが。
竜の卵を盗まれたなんて信じてはもらえまい。
十分程走って、適当なコンビニに車を乗り入れる。
そこでもまたコンパスを見る。
地図に線を加えれば、先程の交点のすぐ側にもう一つ交点ができた。
誤差もあるし、完全に正確ではないから、竜が移動しているかどうかまでは分からない。
閉じ込められているかも知れないし、或いは逃げ出して隠れているのかも知れない。
とにかく、今はあまり位置を変えていないようだ。
時間をかけて、何度かこうして方角の観測を続ければ、移動しているのかそうでないのかは分かるだろう。
一カ所に籠もっているならその位置が分かるし、自由の身だとしてもその行動範囲が分かる。
焦ってはいけない。
今日はこの交点付近を車で回って、地理を把握するに留めておこう。
もしかすれば、彼の姿も確認できるかも知れない。
そこまで多くは期待しないが。




