二十皿目、 ――油断大敵 4
約束通り、キンダイチには狐目の情報を渡すことにした。
と言っても大したことは知らないが。
「俺に盗みを持ちかけてきたのは、狐みたいな優男だった。
目が細くて吊ってる。ひょろっと背が高くてスーツを着てた。
髪はオールバック。あと日本語が片言だ」
覚えている限りのあいつの特徴だ。
「狐に似た男……?」
キンダイチは首を傾げる。心当たりは無いようだ。
「で、あんたが俺の安全に協力してくれるってのは、何をどうしてくれるんだ?」
「勿論卵を引き取ります。あれが孵ると大変なことになりますから」
「例えば?」
一瞬口ごもって、キンダイチはぽつりと零した。
「食べるんですよ、人を」
……それは、予想だにしてない答えだった。
「竜は餌を選ばない。
動物や植物だけでなく、コンクリートや毒物も食べて消化してしまう。
そういう風にできてるんです。
竜にとっては何でも餌だ」
じゃあ何故わざわざ人を食うのか?
卵から孵ったばかりの竜はとても飢えている、とキンダイチは言った。
「だから、生まれて最初に見た動物を獲物と定めて襲う。
あの卵はいつ孵ってもおかしくない状態だった。
もし生まれてたら、その時食われるのはあなただろうね」
ぞっとしない話だ。
でも、それは嘘だ。
卵から生まれた竜は俺を食わなかった。
喰わなかった。
平らげたのはカレーだ。
キンダイチは嘘をついている。
俺を脅して竜を取り戻そうとしている。
どいつもこいつも信用ってもんが無さ過ぎるんじゃないか?
俺も含め。
嘘と真実の間にこそ、そいつの本音が現れている。
俺は、キンダイチを信じることはできないと結論づけた。
狐目?
もっと信じられるかバーロー。
狐と狸の化かし合い。




