一皿目、 ――後悔役に立たず 1
「バイトしませんカ?」
公園のベンチに座ってアルバイト情報誌をめくっていた俺に、あいつはそんな風に話しかけてきた。
スーツ姿の男だった。
優男風でひょろりと背が高く、黒髪をオールバックに撫でつけている。
7月半ばのクソ暑い日差しの下でもきっちりとネクタイまで締めているくせに、汗一つかいていない。
涼しげな切れ長の吊り目と相俟って、爬虫類みたいな奴だと思った。
「バイト?」
俺は訝しげに聞き返した。
普段なら断じてこんな怪しげな奴は相手にしない。
しかし、その時の俺はまさに金に困っている最中だった。
皿洗いでも便所掃除でも望むところという心持ちだったのだ。
狐目の男は薄ら笑いを張り付けた顔で言った。
「簡単なお仕事でス。すぐ済みまス。
コレとって来て欲しイ。トって来てくれたら十万円払いまス」
狐目は写真を差し出した。
写っていたのは何の変哲もないボストンバッグ。
スポーツウェアメーカーのロゴが入っていて、側面にいくつか缶バッジがついている。
どう考えてもヤバい仕事だ。
鞄を持ってくるだけで十万なんておかし過ぎる。
でも俺は金に困っていたし、若かった。
若さとは無謀である、と昔偉い誰かが言ったかも知れない。言わなかったかもしれない。
もし、若さとはバカであると言った奴がいるなら、俺はそいつを全面的に肯定する。
「引き受けた」
「ありがト」
こうして、愚かにも俺は自ら厄介事に足を踏み入れた。