十八皿目、 ――油断大敵 2
キンダイチは、俺の真後ろに立っている。背中に捻られた腕が痛い。
武器とかは持ってなさそうだ。こっちも素手だけど。
単純に腕力じゃあ勝てない気がする、と手首の痛みに思いを馳せながら、俺は尋ねる。
「このまま警察に突き出すか?」
「見逃してもいいですよ。あなたが盗んだ物を返すなら」
おお、何という破格の待遇!
ここで竜を渡すなら、無かったことにしてくれると言う。
どうせ狐目には約束した金も払わずトンズラこかれたんだ。
律儀に隠し立てしてやる義理などないわけだが。
精一杯の余裕を装って、俺はキンダイチに振り向く。
「こっちもちょっと困ってるんだよね。クライアントが引き取りに来なくてさ」
「すると、アレはまだあなたの手元にあるのですね」
キンダイチの表情に喜色が差した。
「あるにはあるけど……、
返せと言われてはいどうぞって訳にもいかないし、一応」
何しろ卵じゃなくてもう孵っちゃった後なもんで。
でもそのことは言わない。
キンダイチは勝手に考え込んでくれた。
多分、色んなことを想像してるのだろう。
キンダイチの事情など更々知らないが、竜の卵を盗ったり盗られたりという関係がまともな連中じゃないことは分かる。
後ろ暗いことの心当たりなどいくらでもあるのだろう。
勝手に悩んでくれ。
その間こっちは時間稼ぎができる。
キンダイチは妙に神妙な顔で俺を見た。
「鞄の中身を見ましたか?」
「卵だろ、馬鹿デカい」
竜の、とは言わない。
キンダイチがそのことを知っているかどうか分からないから。
あれは危険なのです、とキンダイチは囁いた。




