十六皿目、 ――どんな非日常にも、意外と慣れる 6
そりゃちょっとは竜も可愛いさ。
最初はどうしたもんかと思ったけど、正直最近は情の方が強い。
けど、このまま俺が育て続けられるとは思えない。
竜はきっともっと大きくなるだろうし、いつかは隠しきれなくなる。
そうしたら、捕まって動物園みたいな所で見せ物にされるのだ。
あいつの所ならそうならないのかと考えても、そんな保証はない訳だが。
少なくとも、竜を、クロウとシロウをどうするつもりなのか問い質すことはできる。
だから、早いところあの野郎を見つけるべきだ。
結論から言えば、収穫は皆無だった。
喫茶店の店主に尋ねても、あの日以降狐目らしき人物を見かけたことはないらしい。
俺以外に人探しの客が訪ねて来たこともないという。
俺は落胆した。
そりゃ、ばったり出くわすかも知れないなんて都合のいいことは考えてなかった。
けれど、まるで探す様子もないというのは予想外だ。
「無駄足だったか……」
弱った。
ここに現れないならお手上げだ。
他に手掛かりはない。
俺は、素直に諦めて店を出た。
俺は浅はかだった。
考えてみれば、あいつが来ない理由は明らかだ。
“俺が来るだなんて思っていないから”。
俺は盗人なのだ。鞄泥棒。
俺があいつを探しているのと同じように、俺もまた探されていると考えるのは自然なことだ。
俺が盗みを働いた男だって、俺を探してこの辺りを彷徨いている可能性は十分ある。
そこへのこのこと俺がやって来るとは、あいつも考えなかったのだろう。
俺はと言えば、そのことをすっかり失念していた。
溜息一つ。ポケットから取り出した煙草に火をつける。
くわえ煙草で駅の方へと歩き出したところで、
「やっと見つけましたよ」
――誰かが、俺の手を掴んだ。
 




