十四皿目、 ――どんな非日常にも、意外と慣れる 4
とっくに捨てた後だが、あの時渡された伝言には、
『急用有、鞄預ける』
とあった。
預ける以上取りに来る気はあるんだろうが、果たしてどうやって俺を見つける気だったのか。
不思議だ。
「……ちょっと行ってみるか」
あの公園、あの喫茶店、あの駅。
俺と狐目が同行した数少ない場所。
もしかしたら、そこに手掛かりがあるかも知れない。
他に心当たりもない。溺れる俺は藁をも掴む。
思い立ったが吉日とばかりに俺は家を出た。
子竜達が、どこに行くのかと言いたげにピィピィ喚いて追い掛けて来たが、
「ちゃんと良い子で留守番してろよ」
と言い置いて、俺は扉を閉め鍵を掛けた。
さて、公園にやって来た。
太陽は眩く地面を照らしつけ、木陰ではけたたましく蝉が大合唱している。
煉瓦敷きの遊歩道を焼く日差しは、俺の上にも容赦無く降り注いでくれる。
熱い。
暑いじゃなくて熱い。
じりじりと炙られる表皮から、水分が奪われていく感覚。
かいた汗すら即座に乾いてゆく。
もっと良い季節ならジョギングや散歩をする人出もあろうが、こんな時期にぶらついている物好きは俺くらいのものだ。
俺は自販機でコーラを買って、ぐるりと公園を一周してみた。
さして広い公園ではない。
広場と噴水があって、遊具の置かれたアスレチックゾーンがある。
池や植林された森もあって、春には桜の下に地元の花見客が集う。
そんな公園。
歪な二重丸のように遊歩道が敷かれていて、所々で外側の円と内側の円が繋がっている。
大人の足で十五分もあれば回り切れてしまう。
現に、俺はちびちびとコーラを飲みながらも、その程度で一周できた。
案の定、俺以外の人影はなかった。
見かけたのは、風通りのいいベンチの影で、猫が一匹休んでいる姿だけだ。




