十二皿目、 ――どんな非日常にも、意外と慣れる 2
我が家に竜がやって来て、一週間程過ぎた。
朝起きて飯を食って竜の相手をし、家事をする。
昼飯食ってハローワークに行って、必要なら買い物をして帰る。
夕飯を食って風呂に入り、アルバイト情報誌を見つつ竜と遊んでやって、夜が更けたら寝る。
そんな毎日。
概ね平和ではあるが、新しい仕事は見つからないし、微かな蓄えは減るばかりである。
当然、娯楽にかける余裕もなく、一日中竜の遊び相手を務めることになる。
だからだろうか、ふと気づいた。
「…お前ら、大きくなってないか?」
どう分別すればいいのか分からなかったので、部屋の隅に転がしたままになっている大きな卵の殻。
それに潜り込んで遊ぶ二匹が小首を傾げつつ振り返った。
今では、殻はすっかり竜の玩具だ。
最初こそ隠れ家のように出たり入ったりして遊んでいたが、最近は主につついて転がして遊ぶ。
もう秘密基地には狭いのだ。
生まれた日と比べれば、二周りは大きくなっている。
特に翼。
広げても俺の親指の長さしかなかった羽は、今では掌より大きい。
箪笥の上から滑空したり、ちょっと高い椅子に飛び乗ったりと、行動範囲を増やすのに役立っていた。
小さな爪や牙もしっかりしてきて、肉も食い千切るし、猫みたいに柱に傷をつけることもある。
研ぐ必要があるわけでは無さそうなので、多分マーキングみたいなものだ。
やめろと言ったら治まったが、始終引っかく物を探すようになったので、段ボールを重ねた束を与えてみた。
猫用の爪とぎダンボールを参考にした玩具だ。
二匹して引っかきまくった結果、これは大層気に入ったようで、我が家の居間に据え付けられることになった。
そういえば、ずっと二匹で居るからあまり分からなかったが、よく観察すればそれなりに個性も出て来ている。
最初は薄いとも濃いとも言えない曖昧な灰色だった鱗も変化して、
一方は墨が滲んだように黒く、もう一方は霞がかったように白く変わって来ている。
このまま変化すれば、黒い竜と白い竜になるのかも知れない。
“クロ”と“シロ”ではあまりに安直なので、“黒郎”“白郎”と名付けた。
二匹はすぐに自分の名前だと分かったようで、ピィピィ鳴いて喜んだ。
ようやく名前が決まりました。結局安直ですw




