ごちそうさまでした、 後日談8
「だそうですが、どうですか新垣さん?」
「むむむ……」
外堀を埋められた気がする。
給与、つまり雇用、そして安定した収入。
うまく丸め込まれているような気がしないでもないが、閉じた瞼の裏によぎった通帳残高が否応なく事実を突きつける。
無慈悲な現実というヤツが、俺に決断を迫った。
「……前向きに検討する」
ぱっと鹿島の顔に喜色が浮かぶ。
「そうですか、ありがとうございます!
正当な契約の際には、雇用主であるところの教授も連れてきますので、今日は一つ色好い返事を頂いたということで」
鹿島が、俺の前に小さな包みを差し出した。
「こちらをどうぞ」
何だこれ?包装紙に店名が書かれている。
蕎麦処吉祥?
蕎麦?何で蕎麦?
「引越し蕎麦です」
「引越し?」
ハッ、と気が付いた。
「まさか表の……!」
廊下に飛び出る。
運送業者が階段を上り下りして、次々と荷物を運び込んでいる。
その先は204号室。うちの隣りだ。
真新しい表札を見れば、“鹿島”と名字が記されていた。
振り向く。
俺の無言の主張を、鹿島は正しく理解した。
「ええ、お隣です。
これからはよろしくお願いします、新垣さん」
にやり、と鹿島が片唇を上げて笑う。
嵌められた!と思った時には後の祭り。
「こンの詐欺師ーー!!」
鹿島に食って掛かる自分の声が、
秋の青空に殊の外虚しく響いた。
――幕
これにて「竜と俺のカレー曜日」、全編完結でございます。
これまでお付き合いいただきまして、まことに有難うございました!
閲覧くださった皆様のおかげで、最後まで書き切ることができました。
心から感謝を述べさせていただきます。
最後におまけをご用意させていただきましたので、よろしければそちらもどうぞ♪(w*
本当に、どうもありがとうございました!(´∀`*人)⌒☆




