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第一章 悪魔的少女(1)

第一章悪魔的少女



 俺はどこにでもいそうな普通の高校一年生という紹介は非常に曖昧でいい加減な表現だと思うのでもっと具体的にしようかと思う。

 まず学校の成績表は3か4しかついたことがない。つまり、中学では一応勉強が出来たということだ。そして体育も4が常だったので運動も出来なくはない。

 両親は幸いというか運悪くというか出張に名古屋に行っていて、一か月に一度ぐらいしか帰ってこない。

 俺の紹介なんてこんなもので、後は取り立てて書く気も起きない。

 ただ一つ書き加えるなら前章からの流れで逮捕されかけたということだ。そう、なんとかこの年で前科がつくことは免れた。俺をこんな窮地に貶めた張本人に庇われるという形で。

 そんなことがあり疲れで俺はうな垂れるように頭を垂れてソファに座っていた。その隣には依然として素性の知れない少女が座り、カップアイスを食べていた。


「そのアイス、俺が風呂上りに食おうと思ってたやつなんだが」

「ん、知ってる」


 そう言って少女は一向に食べるのを止めようとはしなかった。


「・・・あっ、そう」


 もはや怒鳴る気力も湧いてこなかった。

 少女がアイスを食べ終え、ソファに寝そべったところで、俺は顔を上げることもなくそのままの態勢で尋ねた。


「てかお前誰だよ?」

「悪魔的な存在ってところかな」

「確かにある意味悪魔だな」

「いやそうじゃなくてリアルに悪魔なんだけど」

「へぇー」

「反応薄いな。信じてないし」

「信じられるか。てか近所での俺の信用返せ」

「人は何かを失って何かを得るものだよ」

「信用を失って、変質者の称号を得るのはおかしいだろ」

「得るものが必ずしも自分にプラスになるとは限らないってことを学べたじゃん」

「・・・お前もう帰れ」

「うーん、それが実はヤバい連中に追われていてさ、まだ帰れないからしばらくは居させてもらうよ。まあ迷惑はかけないよう努力するから」

「これ以上何かしたら何か叫ぶ前に殴るぞ」

「じゃあ今のうちに警察に連絡しておこうかな」


 そう言って少女はどこからか取り出した携帯を開き、ボタンを押す音が三回ほど聞こえた。


「・・・すいませんでした」

「・・・だけ?」


 さらに一回ボタンを押す音が聞こえた。


「どうぞ好きなだけここにいて下さい!」


 そう言うとまた一回ボタンを押す音が聞こえ、次に携帯が閉じる音がした。


「お前は絶対ロクな大人にならない。断言できる」

「だから悪魔なんだって。もう何百年と生きてるからね。ところでお腹が空いたんだけど」

「そんなん知るか。どっかで適当に食ってこいよ」


 俺が言うと隣でカチャリと携帯を開ける音がした。


「分かったよ。なんか作ってやるから待ってろ」


 ぶっきらぼうに言い捨てながら立ち上がり、台所に向かった。



 数十分後、テーブルに置かれたチキンスープパスタ(自作)をフォークとスプーンで啜る自称悪魔の姿あった。

 今更だが、こうして黙って食ってる分には良くできた顔立ちをしていると思った。喋る時の口調は男っぽいし、性格でここまで損している奴には初めて会った。

 少女はパスタを食い終えると満足げに頷いて言った。


「いやー人間の食文化にはホント感心させられるよ。にしても中々おいしかったよ。見た目によらず案外家庭的なんだね」

「ほっとけ」


 俺は空いた自分と少女の皿とコップを流しに運んでまとめて洗った。すっかり使用人のようになってしまったような気がする。

 洗い終えてリビングに戻ると少女が唐突に口を開いた。


「ベル」

「何だ、ベルって?」

「僕の名前だよ。まだ教えてなかっただろう」

「今更だな。なんでこんないきなり?」

「悪魔っていうのは信用した相手じゃないと名前を教えないものなんだよ。つまりある程度は君を信用したってことさ」


 そう言って少女もといベルは笑った。思えばこいつのまともな笑顔を見るのはこれが初めてかもしれない。不覚にも可愛いと思ってしまった。


「ほらこっちが名乗ったんだから君も名乗りなよ」

「・・・清水(しみず)光司(こうじ)


 この時の俺が変な表情をしていたのか、ベルは擬音で表すならクスクスという不敵な笑い声を上げた。若干むかついたがそれでも少しだけ打ち解けたような気がした。

 その時、家のインターホンが鳴った。

 この前頼んだ通販の品が届いたのだろうかと思った俺はすぐに玄関まで行き、ドアを開けた。

 しかし、そこにいたのは細身の黒いコートとつばが広く黒い帽子を被った長身の男だった。男は威圧感と呼べそうな雰囲気を纏い、首からは十字架のついたチェーンを下げていた。深く被った帽子のせいでその目元を伺うことは出来ず、それが一層異彩を放っていた。


「私は怪しい者じゃない。少しばかり探し物をしていてね。話をきこうと思い寄らせてもらった」


 男の声はなんというかダンディーで映画に出てきそうな代物だった。ただ言葉に全く説得力がなかった。どこからどう見ても怪しい。ゴルゴの変装並みにごまかし切れていない。しかも流れ的に相手の探し物には大体察しがついてしまった。


「この娘に見覚えはないか?」


 そう言って胸ポケットから取り出した写真には現在進行形で家の中にいる少女が映っていた。

 男は僕の返事を待つ事なく話を続けた。


「単刀直入に言ってこの娘は人間ではない。まあ見た目は完全に人間だがな。こいつは私の職業に関係しているある化け物の内の一体だ」

「職業?」


 男は少し、間を空けて答えた。


「悪魔祓いだ」


 冗談だろとは言えなかった。それほど男は有無を言わさぬ雰囲気を放っていた。


「君が信じているかどうかは分からないが、悪魔は確かにこの世に存在する。ただ多くの人はがそれに気付かない。まあ気付かれたところで困るが。だが私が言いたいのはこんなことじゃない。私が言いたいのはこの娘は悪魔だということだ」


 男は再び間を空けた。どうやら俺に考える時間を与えているらしい。

 しかし、悪魔か。青天の霹靂にも程がある。家に帰ったら見ず知らずの少女がいて、逮捕されそうになり、そしてその少女は悪魔祓いに追われる悪魔だったと。

 正直もう頭がついていけねえよ。


「悪魔は文字通り悪だ。存在するだけでこの世に悪影響を及ぼす。それを消し去るのが私の仕事だ。もう一度きこう、この娘に見覚えはないか?」


 これまでの話からしてまるで俺が知っているのを分かっているような口ぶりだった。確かにあいつは俺に悪い影響しか与えていないし、本当に悪魔だったら退治されるべきなのかもしれない。

 ただ俺の中ではあいつが殺されるほど悪いやつには思えなかった。それは一緒に飯を食ったからかもしれないし、信用したと言われたからかもしれない。もちろん、それらが全てあいつの演技だったっていう可能性もある。むしろ悪魔だというならその可能性の方が高いだろう。

 でも一度ぐらい信じてやってもいいと思えた。


「確かにその子は家にいましたけどもう出ていきましたよ。だからここにはいません」

「なるほど、それが回答か。それもいいだろう」


 男はそう言うと、写真を胸ポケットにしまった。しかし、その代りに黒光りする銃を取り出し、俺の頭にその銃口を向けた。


「私はプロだ。悪魔が近くにいるかいないかぐらいは分かる。そして悪魔側に付く人間に容赦はしない」


 男が引き金にかかった指に力を込めるのが分かった。そして、何かが弾けるような乾いた銃声が聞こえた気がした。いや確かに聞いた。自分の周りを流れる時間が酷く遅く、ゆっくりになったように感じられた。

 その間に俺が見たのは突然、俺と男の間に割り込むように出現したベルの姿だった。

 それだけじゃなく、ベルは銃口を手の平で抑えるように包み込むと紙を握るかのように銃を握り潰し、よく分からないが衝撃波みたいな力で男を吹っ飛ばした。飛ばされた男は廊下の壁にひびが入るほどの威力でぶつかり、その間に、ベルはこっちを向き、俺の腕を掴んだかと思えば腕が千切れるんじゃないかと思えるほどの力と速さでベランダの窓を突き破って柵に足をかけたかと思えば、柵を蹴り、七階から空中へ飛び出した。そして、シルエットだけみれば蝙蝠のような黒い羽みたいな物を背中から出して飛んだ。


 その時のベルはやたら楽しそうな顔をしていたが俺は訳が分からず硬直していて、唯一頭に浮かんだまともなことは「敷金と礼金どうすんだ」だった。


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