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プロローグ 不思議不可思議

 プロローグ 不思議不可思議



 この世は不思議だ。不可思議といってもいい。

 いくら今が平和とはいえ、毎日が変わることなく、なんの事件も問題も異常も起こることが無い。そしてそんな昨日と同じ平和な今日が延々と続いていく、そんなことは有り得ない。もし仮にそんな世界があったとしたら、その世界は恐ろしく異常だ。

 この世には見えるものより見えないものの方が多いように、分かることより分からないことの方が多い。そして、それらは不思議で不可思議なものであることが多い。人間の機微なんてほとんどそうだ。

 つまり、この世は不思議で満ちている。


 だからある夏の始めに学校からマンションへ帰ってみたら、一切面識のない少女が我が物顔で寛いでいた。それも具体的に言えば、年齢は中学生ぐらい、髪は濃い紫色でショートヘアーの少女が俺のマグカップを片手にソファに深く腰掛け、空いたお菓子の袋が置かれたテーブルに足を乗せ、夕方のテレビ番組を見ていた、なんてことが起きても有り得なくはない。


「いや有り得ないだろ!誰だお前は!」


 玄関で近所迷惑も考えず叫んだのはこれが初めてだった。

 しかし、少女はなんら焦る素振りもなくゆったりとした動作でマグカップを口に運んでから、顔をほとんど動かさず、目線だけを動かしてこっちを見たかと思えばすぐに視線をテレビに戻した。


「このコーヒー味薄いな。さては安物のインスタントだな」

「やかましい!」


 靴を脱ぎ棄てて、思わず学生鞄を放り投げた。一応、少女が相手なので顔面にぶつけるようなことはせず、頭上を通り過ぎるようにした。

 それでも、少女は一切顔色を変えることなくテレビを見続けていた。少しだけ顔面に当てれば良かったと思った。


「お前いい加減こっちを・・・」

「あっ!」


 俺が近付くと急に声を上げて上半身を起こした。そして足を下に下ろし、手に持ったマグカップをテーブルに置くと、チャンネルに持ち替え、二、三回局を変えるとなにかドラマの再放送らしき番組で止めた。


「あー、もう半分くらい終わっちゃってるよ。録画予約すれば良かったかな」

「てめえ何様だ!」


 ここでようやく少女はこっちをしっかりと見て口を開いた。


「あの、テレビの音が聞こえないんでもっと静かにしてくれませんか?それに近所迷惑ですよ」

 生まれて初めて女を思いっきり殴りたいと思った。

「ここを誰の家だと思っているのかな、お前は?」


 怒りを必死に抑えようとしたせいで声が必要以上に震えてしまったような気がする。そんな俺の問いにも少女は顔色一つ変えず玄関を指差した。


「部屋を間違えたんじゃないですか?」

「はっ?いや、なるほど。確かにそれなら説明が、ってそんな訳あるか!俺の家の鍵で開けたんだぞ!俺の家に決まってんだろ!」

「ふぅー、地球の上に住む小さな一生命体のくせに勝手に自分の物宣言だなんて傲慢な人間だな。こんな大人にはなりたくないなー」

「おい、殴られてえのか?てか殴っていいか?」


 俺がおそらく青筋を浮かべて拳を構えると少女は溜息を吐いた。


「チッ、こうなったら仕方ないか」


 そう言って少女はソファから立ち上がった。にしても今こいつ確実に舌打ちしたよな。なんでこんなに偉そうな上にむかつくのだろうか。

 てっきり家を出ていくのかと思えばベランダの窓を開け、そのままベランダに出て柵から身を乗り出した。

 そして、飛び降りるつもりかと思い、俺が足を動かそうとしたところでマンション全体に響き渡るかのような悲鳴を上げた。


「キャ~!誰か助けて~!変態に襲われる~!」

「なっ!お前何してんだ!」


 慌ててベランダに出て、止めようとした。具体的には口を塞ごうとした。しかし暴れられたせいで中々上手くいかなかった。その間も少女は絶叫を続けていた。それもかなりリアルな感じで。


「嫌!離して!変態!痴漢!ロリコン!」

「ちょっ!お前ホント一回黙れ!」


 よくよく考えると現状の絵面だけ見れば完全に誘拐犯とその被害者だった。

 十数分の格闘の末、なんとか少女を部屋の中に連れ戻し、床に抑えつけると「大丈夫か!」という声とともに玄関のドアが開き、数名の大人が部屋に入ってきた。

 そういえば今日は鍵をかけ忘れていたと今更ながらに後悔した。

 繰り返すようになるが、女子中学生を床に抑えつける男子高校生の絵面は誘拐犯とその被害者にしか見えない。

 大人達の手によって少女から引きはがされた俺は先ほどの少女に自分がしたように床に抑えつけられた。

 一方、慰められるように心配される少女はなんと涙まで流していた。そして一瞬だけこちらへ向けた時の目と口は完全に人を嘲笑っていた。


 平和な日常生活から一転、謎の少女の手により訳も分からず、まるで性犯罪者のような扱いを受けることになる。この世界はそんなことがあっても不思議ではないのだろうか?


初投稿作品です。楽しんでいただけたでしょうか?

どちらにせよ、読んでくださった方、有難うございます。

プロローグだと悪魔って単語すら出てないことに投稿して気づいたグラサンです。

にしても悪魔とか天使って見る人の立場によって逆転するじゃないかと思いますがどうなんでしょうね。

それはともかく、なるべく短いスパンで投稿しようと思いますが、どうなるか分かりません。でも次回も読んで下されば幸いです。


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