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とある村で・前・裏

  シェリル・G・デクリュンシャルの生徒たちの朝は早い。 この三人は、彼らの師匠、先生、せんせー、よりも必ず30分以上は早く目を覚ます。


 アルトは目が覚めると身支度を終えた後、森へ一直線に駆け出す。 少年は(昨日の晩御飯は魚だったから今日の昼は肉にしよう) と考え、森の中を走り回っていた。  だが不幸なことにあるとはオークの群れと出会ってしまう。 オークの群れは10匹ほどでもうすぐ11歳をむかえる少年が太刀打ちできる数ではなかった。


 アマリスは目が覚めたあと、身支度をし、シェリルが寝ていることを扉越しに確認すると、村はずれにある花畑へとむかった。 (授業をする机の上に飾る花がいるわ) そう考えたアマリスは目当てのシェリルが好きな花を見つけると微笑みながら摘んでいった。 そのあとにプートの実を集めるのを忘れずに。  だが不幸なことにアマリスは、盗賊たちと出会ってしまう。 いくら魔術の基礎をマスターしているとはいえ、少女が逃げおおせる数ではなかった。


  アリスは目が覚めるとシェリルの部屋を目指す。 少し前まで自分が起きるとシェリルの隣で二度寝をするのが習慣だった。 同じ部屋にいるはずのアマリスとアルトは姿が見えなかったが、どうせ食糧確保やなんやかんやで外に行ったのだろう。 (すこし起きるのがおそかったか) そう思いながらアリスはシェリルの部屋のドアノブをるかんだ。 そのとたん、彼女は強い衝撃を受ける。 小さな体はくの字に折れ曲がり倒れこんだ。 内臓を傷つけられたのだろうか、口から真っ赤な血が流れ出ていた。


 「じゃあ三人とも、また午後の授業でね。 森にはモンスターが、村の外には盗賊たちがいるかもしれないから村の外に一人ででてはいけないよ。」 そう言って手を振り一軒家をあとにしようとするシェリルに 「はいっ。」 アルトは元気よく、「わかりました、先生。」 アマリスはにこやかに、「はやくかえってきてね、せんせー。」 アリスは少し不機嫌ながらも手を振って見送る。


  シェリルの姿が扉の外に消え、気配が遠ざかって行った後、アルトは授業の片づけをしたあとに小屋の片隅まで移動し目をつぶった。 その後すぐに金髪の少女から不機嫌と侮蔑を含んだ声が出される。

 「ちっ、もうすこしだったのだが。 余計なことをしおって。 しかし愉快なことだよ。 策士策に溺れるとはこのことだろう なぁ、アマリス。」 まだあどけない顔を完全に相手を見下したものに変えながらアリスは自分の近くにいる少女に声をかけた。 「なんのことだか、まったくわかりませんね。 アリス。」 さっきまでにこやかに笑顔をつくっていた顔を無表情に変えアマリスはアリスに言葉を返した。 「おーおー。 さっきまでのやさしいあまりすおねーちゃんはどこにいったんだろうねぇ。 わざわざそこの獣のプリントを処分してまで、あんなかわいい策を講じたかわいそうな脳みそに免じて、我からシェリルの隣を奪ったことは許してやるよ。」 「なんのことだか判らないと言った筈ですよ、しつこいですね。 プリントはそこの獣が腹ごなしにでも食ったのでしょう。 なんせ獣ですから。 さっき聞いた言葉も忘れるなんて、あなたこそ死にぞこない過ぎて脳が干からびているんじゃないですか。」


  (また始まった) 二人の言い争いは続き、それを聞きながらアルトは、今日こそ巻き込まれまいと願っていた。 正直いって、そこにいるババァどもが怪我しようが死のうが消滅しようがアルトの知ったことではないのだが、こうなると高確率で自分にまで飛び火してくるからたまったものではない。

 「調子に乗るなよアマリス、魔女ごときいつでも殺せるんだぞ。」 「なめるなよアリス、吸血鬼ごときが、その目障りな金髪ごと消滅させてあげましょうか。」 (どちらもさっさと、滅んでしまえ) アルトはそう考えながら今までの経験から、そろそろ火が飛んでくるのを感じていた。「「おいっ、そこの獣、いつまでも蚊帳の外にいられるとは思うなよ。」」 声をそろえて殺気を飛ばしてくる二人の少女は、まさに、吸血鬼と魔女だった。 「そういえばそこの獣、貴様がアマリスごときにプリントを処分なんかされるから、我がとばっちりを食うんだ。」 「くだらんな、吸血鬼よ。 紙なんぞいくら消されようがかまわん、俺が、主が生み出した言葉を文字を忘れることなどないからな。 それに、今から俺は、主のために手に入れたばかりの肉を使って夕食の準備をするんだ。 お前の安い挑発に乗っている暇はない。」 面倒ごとはごめんだとばかりにアリスに返事を返したアルトは扉へと向かう。 「何が主か、シェリルは我のものだ。 我の緊急用の食料だ。」 そう、アルトの後姿にアリスが声をかけた瞬間、さっきまで授業が行われていた机が木っ端微塵になった。 床には獣の深い爪あとのようなものができている。 「お前らにひとつ言っておく。 俺の主に手を出すのならバラバラにしてやるよ。」 さっきまでと違う殺気を込めた声を出すアルトに「ほう、黒獣ごときが我に刃向かうのか。」 と、少しうれしそうにアリスが声を出す。 しかし、「言ったはずだ、俺は主の夕食の準備で忙しいと。」 その言葉を残しアルトは小屋を出て行った。

 

 「なんだ、つまらん。」 興がそがれたようなアリスに対しアマリスが「残念です。あのまま化け物二匹とも消えてしまったらよかったんですけど。」と声をかけて第2ラウンドが始まってしまう。

 「そういえばアマリス、貴様、今朝もまたシェリルの部屋に結界を張っただろう。 おかげで朝っぱらから腹に穴が開いてしまったよ。 そのお礼をしてやろう。」 「あら、ごめんなさい。 お詫びにプートの実をその口に捻じりこんで上げますよ。 だけどあれは、あなたが私の研究材料に手を出そうとするからでしょう。」 「わざわざ鬼除けの実なんか拾いに行くなんて暇人が。 しかも結果ごときに<グラン・スペル>なんか使いやがって。」 「媒介も魔方陣も使っていない結界なんかであなたを殺せるとは思っていませんよ。 あなただって、盗賊たちを使って私を殺そうとしたでしょう。」 「ははっ、 

<裏切りの魔女>があんな屑どもに殺せるわけないだろう。 貴様の勘違いだ。」 「その名で呼ばないでください。 あなたもただ寝ぼけていただけでしょう、<お人形さん>」 「やめろ、<裏切り> 本当に死にたいのか。」 「黙れよ、<人形>」 「「・・・ 死ね」」 二人は声をそろえたあと各自の詠唱に入った。 《従属せよ》《殲滅の》《炎よ》 アマリスの両手に黒い炎が集まり、「我の眼前の屑を抉り殺せ。」 アリスの影が螺旋の形を取ったのは同時であり、  その数瞬後に二人のいた一軒家が消滅してしまうのだが、主のために鼻歌を歌いながら夕食の準備をしていたアルトがそれ気づくのは、30分たった後だった。   

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