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竜の世界にとりっぷ!

竜の世界にとりっぷ! 5

作者: こころ 

こちらは、「動物の世界にとりっぷ!」作品たちと同じ世界観のもとで、書かれています。詳しくは、まとめサイトさま(http://www22.atwiki.jp/animaltrip/pages/1.html)へどうぞ。


 *蛇の描写について嫌悪を抱かれる方は見ないほうがよいかもしれません。

 *また新しい竜族限定設定が生じています。ご了承ください。

 

 以上に了解された方から、スクロールどうぞ!




 拝啓  我が愛するべきクソジジイどの


 お久しぶりです、お祖父さま。お元気にしていらっしゃいますか?

 私は元気です。

 身一つ+(プラス)デッキブラシ一本で来たこの異世界で、早くも一年が過ぎました。もう、28歳ですよ、28歳。―――私が5歳の頃に失くした父母と同じ年になってしまいました。不思議ですね、なんだかおかしな気がします。

 こちらの世界での縁が合ったのか、竜の上位種であるご主人さまに無事庇護された私は仕事まで頂き、問題なく生活を送らせていただいております。時折、『どうよお前ら』と思うようなお客様にもお会いしますが癒しの存在に慰められつつ一日一日を歩んでおります。ええ、可愛いですよ子蛇ちゃんたち。うふふ。

 かくかくしかじかの事がありまして寝起きを共にする日があるご主人さまこと竜族のリアディとの一時別居のうえ会話拒絶状態も、今は以前の状態に戻りました。……お酒って本当に美味しいですよね。(いえ別にそれだけが許した理由なわけではないのですが)

 ですが、これはあくまでもの仮の復旧です、ええ。

 次の喧嘩記念日はいつ来るのかとおもっております。

 そのような事を想いつつ、今日も一日を過ごしていたのですが。

 ……またもや、珍客訪問です。

 今回のお客様はお仕事のお客さまではございません。呼んでもないのにやってきたその訪問客の名を「ユイン」と申します。…ええ、やはり彼女は竜族なのです。

 どうしてこうも新たに新たに問題は生じるのでしょうか。―――癒しが欲しいです。

 お祖父さま、今年の慰安旅行は温泉旅行でお願いしますね。日本人ならやはり基本は抑えるべきでしょうから。

 ……温泉、いいなあ。どこかに秘境の湯でもないかな、この辺ありそうな気がするんだけども。


 貴方はきっと元気でいらっしゃると信じています。いつか、またお会いできることを祈っております。


                          敬具


 動物が人になる異世界にて                        佳永かな












 用意するもの。

 コップが一つ。水桶一つ。手拭い一つ。タオルが一つ。―――最後に、櫛と香油を少々。


 目覚めると掛け布団をめくって、まずは一杯の水を呑みます。

 それから、前日に汲み置いておいた水に手拭いを入れて浸します。

 ひんやりとした水を含んだそれを堅く絞り、右の眼を眼頭からゆっくりと拭います。左の眼も同様に。

 もう一度手拭いを浸し、今度は額と鼻と頬と口を拭う。――顎の下と耳の裏はその後で。首の後ろは一番最後。濡れた余分な水気を柔らかなタオルで取るのです。

 その後、何度も強調しますが身一つで落ちてきた私のためにご主人さまが貸してくださった木製の櫛で髪を溶かします。(どうして、男性なのにそのような女性の細かな必要用具について気付いたのかはいささか疑問ですが)

 植物性の香油で軽く髪の先を整えるのは今日の衣装に着替えた後です。

 以上、異世界における私こと岩倉 佳永の朝の始まりの風景です。


 「やはり、この櫛は使いやすいです」

 見た目は素朴な木製の櫛である。和風の趣のある半円形の櫛。よく時代劇などで町の娘さんが髪に挿してるアレですね。

 なんだか手にするだけで温かい人肌のぬくもりを感じる気がして私は好きなのですよ。

 新品ではないですよ? 人が使い込んだ証に、櫛に塗られた漆がすごく輝いてるんですよ。綺麗なんです、これが。

 きっと愛着があるものだったのでしょうね。

 丁寧に扱って、毎日櫛に付いた髪の毛を拾って、布で櫛についた脂(指紋など)を丁寧に拭いつづけて来たものなのでしょうね。――私などが使っても大丈夫なものなのかと心から心配になります。

 ですが、貸してくださった御主人さまは「いいんだよ、使わねえともったいないだろう」と云われますので、有難くも借りているのです。

 物は使われてこそ生きるのだと。

 櫛の持ち主はそのように云われていたらしいのです。――よい言葉です。

 ですが、物は丁寧に扱わねば壊れますので丁寧に扱わせていただきます。私も古い道場の娘でしたから物の扱い方には厳しくしつけられたものでしたよ。

「で、こちらはどちらの女性の忘れものですか?」

 それでもこのような女性用の櫛を男性が持っているということはそのようにしか考えられないのですが、いかがなものでしょうか? ご主人さま。

 抜け出た布団の反対側で丸まっているリアディさまに問いかけてみましたが、相手はどうやら冬眠中のようです。お返事はありませんでした。

 ―――うぬ、手ごわい。

 コップに残っていた水を呑みつつ「――今日の朝ごはんはなんでしょうかね」とか呟いてみました。






 しゅー。

 子蛇たちの発する声は、まだまだ小さくて稚いです。ああ、可愛い。

「おや、小さな牙が生えてきましたねえ。ははは、大丈夫ですよー、怖くないこわくない」

 つい癒しを求めてきてしまいました。保育所と私が呼ぶ邸の離れで私と同じようにご主人さまに庇護されている『ちいさきもの』たちをかまいに来ました。

「そういえば、佳永さん。このまえは素敵なものをありがとうございました」

 子供たちもとても喜んでますよ。あれ。

 今日も「ちいさきもの」と呼ばれる子蛇たちの担当メイドをなさっている、蛇族のウルティカさんがご挨拶をしてくださいました。

「いえいえ、お気になさらず」

 ですが喜んでもらえているのなら嬉しいですねえ。

 ほんわかと二人で笑顔で見つめたわけです。

 しゅー。しゅー。ちろちろ。つるん。――――ぽてん。

 先日の休日にお買い物にいきました。お伴はおりません。腰につけた護身用杖がお伴といえばお伴でしたでしょうか。

 そこで、ある露天商の並べる商品を見つめてふと思いついたことがありました。

 即断即決。

 少し荷物にはなりましたが、荷運びのための馬を借りてまで買って帰ったのが目の前に鎮座している物体です。

「見事に蛇鍋になりましたねえ」

 うむ、計算どおり。

 大きめの土鍋を5つ購入し「ちいさきもの」たちの住まう保育室へと運びいれたのは、私の最近の良いお仕事でした。

 土鍋にころころと転がりこんだ子蛇たち。

 思い思いの格好でとぐろを巻いたり、のびっと転がってみたり、一個の土鍋の中からとぐろを巻いた子蛇ちゃんがひょっこりと顔を出してるのを見ると床をどんどんと叩きだしそうです。くそう、カメラをくれ。

「暖かすぎず、冷たすぎず、大人たちに比べても温度調節の苦手な子たちにとっては楽でしょうね」

 ウルティカさんにも褒められました。

 単純に一時期流行った猫鍋を想像しつつ、そういや陶器って意外に保温性優れてた気がするーなどと思っただけの話だったのですが。

 …今度の休日もまた買い物に行こうかなあ。

 仕事で金を稼ぎつつも使う暇がない私にとってもよいショッピングの理由になりそうで、とてもよい発想だと思いました。

 癒しは大事だよってことです。


【おおおお、すげえ。おもしれえこれ!】

【あんたが終わったら今度は交代ね!】

 土鍋の蓋のうえで丸まってる子蛇のロッドリーくんとその土鍋を揺らして遊んでいるユピちゃんたちを眺めつつ、シーソーもいいなあなどと思いつつ見つめた佳永だった。







「あなたが噂の落人おちうどね!」

 びしっと。

 いきなり人に指を押しつけてきたのが、人形ひとがたの少女だったわけですが。

「……初めまして。私は確かに落人ではありますが、貴女はいったいどちらの方なのでしょうか?」

 座学の途中にいきなり乱入してきた少女は、ツインテールに赤い花飾りをつけた美少女でした。

「あ、ユインだ」

「――お久しぶりです、ユインさん」

 泣きながらノートを取っていたレイヤは少女を指差して言い、傍らで励ましていたトールは姿勢を整えてからおもむろにレイヤの礼儀知らずな人差し指を綺麗に折り曲げてから挨拶をしていました。

 …あれ?

「トールのその態度ということは。――――竜族のかたですか?」

 またか。

 心の中でそう思いつつ尋ねた私に対して、トールは頷きました。

「はい。―――ファンリーさまにお仕えしている竜族のロン形種のユインさんです」

「なるほど」

 先日初めてお会いした老女(といったら本人には殺されそうですが)のファンリーさまの配下のかたですか。

 脳裏に、そのフリーダムだった彼の竜を思いだして頷いた私でした。

「で、何でユインが来てんだ? リアディさまはまだ御在宅じゃねえぜ?」

 トールにいきなり指を折り曲げられて悲鳴を上げていたレイヤでしたが、まったく空気を読まぬ口調でお客様に話されました。

「…レイヤ?」

 どうしてご主人さま? そしてなぜお客様に敬語を使わないんですかキミ。

 敬語が得意とはいいませんが、レイヤも立派な成人です。このお屋敷に訪れるお客様に対しての言葉の使い方については理解しているはずなのですが。

「レイヤはご主人さまのもとへ訪れるまえに別の蛇族の群れで育ってますので。――その際に、縁があったらしいんです」

 説明してくれたトールに「初めて聞きました、そんなこと」と返答をするしかなかった。

 なるほど。だから若干変わってるんですねえ、言葉つかいとか嗜好とかが。

「リアディさまはいらっしゃらないんですの? 聞いてませんわよ、そんなこと」

「っていわれてもなあ。夕方には帰っておいでるって聞いてるぜ? メイムさんから」

 普通に種族を超えた友人関係を築いているらしいレイヤに感心しつつ聞いていたのですが。

「そっか。メイムさんがいうならそうなのね。――じゃあ、あたしリアディさまが帰ってくるまでここにお邪魔してるわ!」

 と少女が言い。

「あれ、仕事は?」

 とレイヤが尋ね。

「今日は休日だから問題なし!」

「そっかー、じゃあ問題ないな!」

「そうそう」

 あはははははは。

 などと両名が笑いだすのを見て思いました。

「――――レイヤの方は仕事中なのですがね」

「……すいません」

 なぜか親友の代わりに謝ってきたトールにはそろそろ胃薬をプレゼントしてもいいと思うんです。







 そのようなやりとりがなされてから2時間が経過しました。


「だから、リアディさまは将来有望で竜族や龍族の姫君からも眼をつけられてるんだってば」

「ああ、ご主人さまの漆黒の竜形ももてそうだよなあ。俺もご主人さまの竜形最近みれてなくてさあ」

 残念!

「――――― 仕事がすすみません」

 お客様とレイヤが姦しく喋っていて困るのですが。

 聞きたくもないリアディさまの美辞麗句を聞きつづける苦行に私の頭が死にかけていました。

「ははは…」

 ユインさんはご主人さまの大ファンですからねえ。

 トールが慣れた仕草で二人にお茶を提供していました。―――すでに常態がこうだということですね、判ります。

「なのにどうしてそんな冷たいわけ? 一応、リアディさまの恋人なんでしょう? あなた」

 不思議~。

 ツインテールが揺れています。

 仕草は可愛いですが、私をその恋バナに引き込まないでください。そして、恋人じゃありませんから。

「……恋人ではないので普通の対応だと思いますよ」

 一呼吸の間を置いてから返事を致しました。

「ええ? 嘘だあ。わたしちゃんとファンリー様から聞いたんですよ~。『リ―坊ってやっぱり親に似たのねえ』って。『へたれで、好きな人に弱くて、落人に惚れてメロメロになってるあたりが完璧育ての親にそっくりだ』ってファンリーさまが言ってたんですよ!」

 だから、貴女がリアディさまの恋人なんでしょう?

 ――――瞳を輝かせて尋ねてくる夢見る少女に誰か現実を見せてあげてください。

 もはや、それだけが今の私の望みでした。

「…って、育ての親? 」

 リアディさまの?

 流したユインさんの発言のなかにびっくりする単語がありました。

「? それがどうかしましたか?」

「カナのアニキ?」

「アニキ?」

 不思議そうにこちらを見る三者三様。

「―――竜族は、とくに竜形種りゅうけいしゅは――他の種族とは異なり、卵から生まれる瞬間を除けばほぼ一人で育つと聞いていましたが」

 もちろん、完全なる上位種との契約を交わしたものだけは竜族の「ちいさきもの」として保護されるということは聞いてはいました。―――その契約は、幼生体の竜族が長じたあとまで続くご主人さまとの主従関係を必須とした契約であるとも。 

「リアディさまは一体どなたと契約を交わしたのですか?」

 それは通常ではありえない話でした。

 主従関係を結び、主を定めた竜族は生涯をそのご主人のもとにて育ちます。親が死んだなら子を主と呼んで。

 一度、他の竜族の従者となった竜族は庇護する側には立ちません。あくまでもその補助となる立場を貫くしかなくなるのです。――それが竜族のならわしであった筈なのに。

「―――あ」

「え? カナのアニキ、知らなかったんですか?」

 私の問いに顔をしかめたのはトール。

 きょとんと不思議そうに聞いたのはレイヤでした。

「貴女、そんなことも知らないの!?」

 竜族じゃ有名な話でしょ!

 そして、恋人のくせに何も知らないのねと私に言いながら教えてくれたのはユインさんでした。


「リアディさまは竜族だけど、蛇族の上位種のもとで育てられたのよ!」


 ――大きな声で彼女はそう教えてくれました。


 ああ、私は何も知らないままにここにいたのですね。この一年間。

 リアディさまのことなど、私は何も知らない。

 この世界に適応したふりをして。

 賢しらげに説法をして。


 ――――― あの優しい獣のことを、私はなにも知らない。




「―――聞いた声がすると思ったら」

 部屋の扉を開けて、聴こえて来たのは少し低めの男の声。



「いつのまに来てたんだ、この口の軽い小娘は」



 私が今朝初めに聞いた声の持ち主。――――ご主人さまでした。 












「―――あ、あ~。…カナ? 」

 怒るなよ?

 目の前で私を見つめて、困った顔で手を伸ばしているリアディさまがいます。

「怒ってません」

 私はそれを避けることもせずに、ただ待っているだけでした。

 そう。

 たぶん、最初に出会ったときからずうっと。





 私を庇護してくださっているご主人さまであるリアディさまは、あのあと無言でユイさんに手を伸ばしました。

「―――さっさと渡すものを渡して帰れ。ユイン」

 それは不機嫌そうな声でした。

「あら? いいじゃありませんの、私もう少しこちらで久しぶりにお喋りしていきたいです…」

「―――――――――――――帰れ」

 きゃらきゃらと笑ってリアディさまに対して違言を唱えていたユインさんでしたが、ご主人さまの本気の命令にびくりと震えたあと、彼女は仕事をこなして帰られました。

「こ。―――こちらが、リアディさまへの殿下からのふみにございます」

 彼女はどうやら文を届けに来ただけだったようです。

 文の色は緑色。

「―― 緑、か。――― 返しの文は明日でいいな」

 文句はいわせん。

 リアディさまはそう告げると、トールやレイヤとセットにして彼女たちを部屋の外へと追い出しました。

「―――ご主人さま!」

「え? 今日のお仕事終わりっすか?」

 必死のトールと呑気なレイヤ。

 こうやってみると実はレイヤの方が大物だったのかもしれないな、と全てが終わった後でふと思い出しました。

 ―――このときはまだ、そんなことを考える心の余裕などありはしなかったのですが。


「ご主人さま! ――――申し訳ありません!」


 閉められた扉の向こうでトールが叫んでいた言葉が、何故か頭の中に染みました。








「―――どうして私は、これほどに愚かなのでしょう」

「ん?」

 リアディさまの伸ばした指は、私が今日梳いた髪の毛を静かに掴んでいました。

「今になってようやく、――― 私は あなたに 甘えさせていただいていたことを理解したのですから」

 呟いた私の声は近づいていた彼の唇で封じられました。


「――― 俺はそんなおまえが好きだがね 」








 笑ってください、おじいさま。―――お師匠様。



 私は、―――― 愚かです。






                                 了 











 ここからの足掻きが28歳の真骨頂。

 

 今回も読んでいただきありがとうございました! ><

 出来れば、次回もお願いしたいです。(汗)


 ―――次回は一月末か二月で是非。


 ※キャラ名間違い修正しました。

 ※キャラ名変更しました。ユエ→ユイン

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 蛇鍋に癒やされたら、なんだか不穏な予感。 リアディ様の思いが届きますように。
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