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大人の事情

作者: WAIai
掲載日:2026/11/06

桜が散り始め、道路に絨毯を作り始めた頃、竹山香はカーテンを閉めていた。

仕事帰りでお風呂に入ったばかりであり、タオルで髪を拭く。

すると手が伸びてきて、タオルを奪い取られる。

香が振り返ろうとすると、片手は腰に、もう片方は髪の毛に触れてくる。

「一緒に入ればよかったか」

ぼそりと呟いた1言に、香は頬を赤らめながら、腰に回された手に、自分の手を重ねる。

「駄ー目。仕事で疲れているんだから、その、セックスは後」

「そうなの? 今、襲ってもよさそうな気がするんだけど」

けろりと言ったのは同居人の小野孝であり、髪を優しく拭いてくれる。

今日は少し肌寒いので、エアコンが効いていた。

お陰で晴れた日の太陽の陽気のように、暖かい部屋となっていた。

香は照れながら、孝の腕を叩く。

「全く。我慢、我慢」

「えー。今すぐやりたいのに」

身体をひょいと持ち上げられ、香は「きゃ」と悲鳴を上げる。

2人とも20代で若さがあり、力が有り余っているが、香は足をばたつかせ、文句を言う。

「降ろして!! その、私、重たいから」

「そんなことはないよ。もっと食べないと」

孝は不満そうな顔をすると、香を床へおろす。

ほっとしたのは香で、孝の手からタオルを取ると、首に巻く。

それから振り向いて孝を見、目で訴える。

ー何で身体の関係、そんなにしたいかな? 求められるのは嬉しいけれど、女にとっては、負担が大きいのよね。

香は耳をかくと、孝の頭を撫でる。

「今はこれで駄目?」

「ぶー。抱きたい」

「しょうがないな、もう」

香は爪先立ちになると、孝の唇にキスする。

蝶が花に触れるように、軽いものだったが、孝は嬉しかったようで、頬を綻ばせる。

「香!! やっぱり、俺…!!」

「ち、ちょっと待った。もう少し待とう。ね? 軽いスキンシップならいいんだけど」

「えー。俺、興奮してきたんだけど」

抱きしめられると、確かに孝の身体は反応しており、香のほうが恥ずかしくなる。

「その、私、胸が小さいよ?」

「大きさは関係ないの。大きければいい女っていうわけでないし」

首を噛まれ、香の身体が怯む。

「嫌だ?」

「嫌だ。今は嫌だ」

はっきり断ると、孝は面白くなさそうに、香の身体に触れてくる。

「あ、こら!! やめてってば!!」

「いいじゃん、減るものでもないし」

身体はすでに乾いており、なめらかな肌となっていた。

孝は背中に触れたり、尻に触れたり、まるで病気を確認する医者なような動きだった。

「あの!! その、くすぐったいというか…」

「我慢。…いい尻をしているんだよな」

何度も触られ、香は身体が熱くなっていくのを感じ、両手で孝を押す。

「駄目、駄目、駄目。今は絶対に駄目」

「いつならいいの?」

「いつって…。それは、その」

恥ずかしさからもじもじすると、孝は顎を掴まえてくる。

そのまま唇を指で撫でられ、ぞくりとする。

「ー俺、好きなんだけど?」

真摯に言われ、香は胸が騒がしいくらい慌てていた。

ーどうしよう。私も、その、身体が反応しているんだけど、お風呂に入ったばかりだし。

求められるのは嬉しいが、このまま流されるのは嫌だった。

お互いが気持ちを良くしないと、行為に及んでもつまらないというか、辛くて悲しいものになると思っていた。

ー両想いだからいいけど…でも、私もまだ妊娠したくないし。

香は事務職についており、毎日、充実していた。

もちろん陰で何と言われているのか知らないが、嫌な奴が2、3人いるのはしょうがないと割り切っていた。

「…香? 香ってば」

「え…?」

目の前で指をぱちんと弾かれ、香は目が覚める。

すると孝がキスしてきて、すぐに深いものとなる。

「う!! う!!」

孝の背中を軽く叩くが、許してくれそうもなかった。

叩く手を封じられ、2人の身体が重なる。

「…どう?」

ようやく唇が放され、孝は紅潮しながら聞いてくる。

香はそれどころではなく、力を失くし、その場にずるずると座り込もうとする。

ーあ、タオル…。

肩にかけたタオルが先に床へつく。

黄色いそれは目立ち、まるでタンポポのように、穏やかに映って見える。

手を伸ばそうとすればいいのだが、孝にがっしりと押さえられていて、できなかった。

「どう? 俺のキス」

「…もう。ずるい!!」

香が頬を膨らませて抗議すると、孝は喉でくっくと笑う。

意地悪な王子様なんだからと思いつつ、身体を放そうとするが、無理だった。

「孝」

「何? どうしたの?」

「どうしたって…。その、早く放して」

「何で? 恋人なんだからいいじゃん」

「それは…そうだけど。その」

香はしどろもどろになり、ますます孝が嬉しそうに、抱きしめてくる。

ーもう、悔しい!! 

どうしても孝のペースに持ち込まれ、香は孝の頬をつねる。

「もう、そんなに私がいいの?」

「いいに決まっているじゃん。だからスキンシップしているのに、香は馬鹿だな」

「馬鹿!? …全く」

顔を横に向けようとしたが許されず、また孝を見つめることになる。

孝のブラウンの瞳には、香しか映っておらず、嬉しいような、悔しいような、複雑な感情がわいてくる。

「さて、お姫様、どうする?」

「…」

香の反応を楽しんでいるようで、彼を睨みつける。

人が一生懸命、考えているのに、聞いてくるのは卑怯だと、胸を叩くことで訴える。

しかし、こんなにも自分を求めてくれるのも孝のみなので、香は迷い始める。

ーその、キスは嫌いじゃないし。

彼の唇はキャンディーなように甘く、グミのように柔らかかった。

孝が額と額を合わせてきて、顔を近づけてきたので、香は観念する。

「その…私でいいの?」

「何を言っているんだ。怒るよ、俺」

真剣な表情に香は負け、身体を預ける。

「孝がその…好きにしていいよ」

「よっしゃ!! そうこないと!!」

香は身体を持ち上げられると、短い悲鳴を上げる。

そのまま肩に乗せられ、運ばれていく。

「俺の言うことを素直に聞かなかったから、手加減なしね」

「え…」

意味深に笑う孝に、香は戸惑い、頬をひきつらせる。

2人は寝室へと向かうと、パタンとドアが静かに閉められるのだった。


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