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HELLO

作者: 朧月るゐ

私、浅瀬真緒は学校の屋上にいた。

屋上に行く事。それが日課だ。

家に帰ってもウルサイ人たちがいるだけで、休める場所なんてありはしない。

世間体を気にしてばかりいるアワレナヒトタチ。


目の前で鳥が悠々自適に飛んでいる。

私は鳥が羨ましい。なぜなら、どこまで飛んでいけるから。

どこまでもどこまでも遠い場所へ・・・・。

そう思ったとたんやりたくなるのが、リスカットまがいだ。

まがいなのは、死ぬことが怖いから。けど、やめる事は出来ない。

〈PBR〉いつも持ち歩いてるカッタ―をポケットから取り出す。

すっかり癖になったこの行為。今更何も感じない。しいていえば、安心感。

刃の先を自分の肌に当て、ゆっくりと力を込めて引く。

皮膚がさけ、うっすらと赤い液体がにじみ出る。

それを無感動に見つめる。なんとも思わない。

欠落した感情。失われた心。二度と戻る事はないのだろう。


それを見つめる事数分。

コンクリートの上には数滴の赤い液体が落ちていて、手首の血は固まってきていた。

たいしたことはないのでそのまま放置する。

コツン。誰かが屋上へ続く階段を上がってきている。

ここに来る人は限られていて、今から来る奴も予想済み。

私がさんざん来るなと言っても毎日懲りずにくる。

(アイツが何を考えているかよくわからない)

扉の開く音が夕方の空に響く。

「また来たの?」

「おう。また来た」

「何故」

「来ちゃ悪いか?屋上は全生徒共有の場所だと思ったんだが・・・」

「悪い。ウザいから来るなって何度も言った覚えがあるんだけど、気のせい?」

「嫌。気のせいじゃないないな。何回もここに来るたびに言われた」

「なら何故来る」

「お前に興味があるから、と俺も毎回言ってるんだが」

淡々と会話が続く。

「天下の不良様も随分と暇なのね」

ちょっとばかりからかいの色を含ませる。

「お前こそ随分な変わりようじゃないか。・・・・お前のファンがその恰好を見たら泣くぞ、わが校のプリンセスよ」

男は、私の発した言葉も気にせずに逆にいい返してくる。

「それが何。彼等は浅瀬真緒に憧れてるだけで『浅瀬真緒』の存在など微塵も気づいてない。

彼等が憧れているのは優等生で誰にでも優しい浅瀬真緒。そして、彼等が『浅瀬真緒』を知ってどう思おうと私は知らない」

そう言って真緒は今の自分の格好を見る。

普段は第一ボタンまで占めているブラウスは第二まで開けており、隠しているリスカの後は露わになっている。膝小僧まであるスカートもぎりぎりのラインまであげ、見えるか見えないの位置だ。

「お前らしい。だが、俺はそんな『浅瀬真緒』の方が好きだな。お人形ではない浅瀬真緒の方が・・・・」

甘く恋人に囁くように男は言う。

「口説く相手が間違ってるわよ」

真緒は、この町で恐れられている総長相手に物怖じもせずに言う。

泣かせた女は数知れず、いざとなれば女性にも力をふるう総長にだ。

「俺にそんな事を言うのはお前ぐらいだぞ」

男は何が面白いのか喉奥で声を抑えて笑う。

「で、いつになったらここから去るの?」

「おいおい冷たい事言うなよ」

男はそう言うだけで、どっかりと居座る。

「何居座ろうとしてんのよ」

「べつにいいじゃねぇか。減るものは何もねぇよ」

「・・・・・・・」

真緒は言い返そうとしたが、時間の無駄だとさとりまた空を見上げる。

さっきまでいた鳥たちは、自由な羽をはばたかせどこかへ飛び去っていた。

沈黙が二人を包む。

お互い何もしゃべらず、ただ空を見る。

真緒は空を見ながらぼんやりと思う。

男と一緒に過ごす時間が嫌ではない事を。

何かとかまってくる事は頂けないが、ただこうして黙ってるだけだと不快感など感じない。

(コイツと過ごす事に慣れてしまったからなのか、それとも許し始めているのか。できる事なら前者の方がありがたい。もし後者なら・・・・。)

そこまで考えて慌てて考えることを放棄する。

その先は考えたくもなかった。

考えなくていい。だって、なにも変わらないんだから。未来永劫ずっと・・・・。



〈PBR〉すっかり暗くなった中、家路をたどる。

男は家まで送るとほざいていたが、無視して通り過ぎた。

あとを着いてくるのかと思ったが、その心配はなかった。

〈PBR〉明かりがついてない家。

(今日は帰ってこないのね。・・・・そういえばパーティーがあるって言ってたな)

真緒は今朝交わされた会話も思い出す。

どこかの有名財閥のパーティーが開かれているんだっけ・・・。

興味がないからすっかり忘れてた。

けど、これで静かな夜が過ごせる。


浅瀬財閥。世界に名を響かせてる財閥である。

真緒は、そこの次女として生まれ、英才教育を受けさせられている。

姉は彼女が七歳の時に嫁ぎ、それ以来帰ってこず、次期社長は彼女になった。

その時からだろうか。

すべてがくだらなく思い始めたのが。

彼女は聡明だった。聡明なゆえに大人の腹の探り合いがくだらなく思えた。

パーティーにも行かされるようになったが、中学に上がったらぱったりと強制されることがなくなった。

そうなるように彼女は六年かけて土台を作ったのだ。

そして、高校に入っている今。

もう逃げられない運命がまじかにせまり、彼女を捕まえようとしていた。





気まぐれ更新になりそうです。

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