表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/74

【第3項】禁足地への帰還:アルスが提案する単身での森への潜入と、自警団の猛反対を押し切って明かされた「常連」という驚くべき過去

「ここに行けば、何かがわかるかもしれない」

 アルスは言った。

「でも、そこは……」

「ああ、最深部だ。自警団が全滅した場所よりもさらに奥。……地獄の一丁目だよ」


 二人は息を呑んだ。

 そこへ行くということは、死を意味する。

 バルカス・ガストンでさえ、深手を負って逃げ帰った場所なのだ。

 今の彼らには、到底辿り着けない場所だ。


「……だから、僕が行く」

 アルスはさらりと言った。


「は……?」

 二人は固まった。

 言葉の意味を理解するのに数秒かかった。


「お、おい待て! 今なんて言った!?」

 グレイが慌てて立ち上がる。椅子がガタッと倒れる。

「僕が行くって言ったんだよ。一人でね」


「正気か!? 自殺志願者かアンタは!」

 グレイの顔色が真っ青になった。

「俺たちは『知恵』を借りに来たんだ! アンタに死んでくれと頼みに来たわけじゃない!」

「そうよ! 私たちでさえ歯が立たなかったのよ!? 非戦闘員のあなたが行ってどうするの! 瞬殺されるわよ!」

 エレオノーラも悲鳴のような声を上げた。


 二人の猛反対。

 当然の反応だ。

 錬金術師が単身で魔境に乗り込むなど、狂気の沙汰だ。

 彼らにとってアルスは、守るべき対象であり、失ってはならない街の宝なのだ。


 だが、アルスは笑っていた。

 その笑顔には、不思議な余裕があった。


「心配ないよ。……僕はあそこの『常連』だからね」

「常連……?」

「小さい頃、よく遊びに行ってたんだ。……あそこの魔物たちは、僕の顔馴染みみたいなもんさ」


「はぁ!?」

 二人は絶句した。

 遊び場? 顔馴染み?

 あの殺戮マシーンたちが?

 冗談にも程がある。この男は、恐怖で気が触れてしまったのだろうか。


「嘘だろ……。あんな化け物どもと遊んでたなんて……」

「本当さ。……それに、僕には『切り札』がある」

 アルスは懐から、小さな小瓶を取り出した。

 中には、紫色の煙が封じ込められている。


「これは?」

「『翻訳のトランスレーション・スモーク』。……魔物と会話するための道具さ」

「会話……!?」


 アルスはニヤリと笑った。

「戦わずに勝つ。……それが最高の錬金術だよ」


 グレイとエレオノーラは、もはや何も言えなかった。

 この男は、自分たちの常識の範疇を超えている。

 「ドブの魔術師」と呼ばれる変人。

 その異名は、伊達ではなかったのだ。


「……本気なんだな?」

 グレイが念を押す。その目は真剣だ。

「ああ。任せておいてよ」

「……死ぬなよ」

「勿論さ。美味しい夕飯を作って待ってるから、二人もゆっくり休んでてくれ」


 アルスは軽装備を整え、店を出る準備を始めた。

 その背中は、頼もしくもあり、どこか危うげでもあった。

 だが、今の二人には、彼を止める術も、代案もなかった。

 ただ、信じるしかなかった。

 この型破りな錬金術師が、奇跡を起こしてくれることを。


 外の雨音はいまだ止まない。

 だが、工房の中には、確かな希望の火が灯っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ