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第三阻止線


 帝国軍が足止めを食らっている一方で、カリウスたちは第三阻止線に到着した。

 

 第三阻止線の周辺地形は、この上なく遅滞戦闘に適していた。


 阻止線の前方には、それを横切るように小川がある。

 幅と深さはそこまでではないが、苔に覆われた石と泥でとても足場が悪い。


 川をわたるのにボートは不要だが、歩兵は必ず足を取られる。

 また、走破性に優れた軽戦車であっても、道を選ばざるを得ない。


 そして、阻止線の本体――兵を伏せさせる陣地は、対岸の森の切り立った崖の上にあった。


 崖の高さは3メートルほど。

 低すぎず、高すぎず。「頑張れば登れそう」と思わせる、実に絶妙な高さだった。


 第三阻止線は、カリウスの〝とっておき〟だった。この場所は、鉄条網や地雷がなくとも、敵の接近を寄せ付けない地形になっている。


 まさに「天然の要塞」。

 少数で大軍を相手取るには、これ以上は無いといって良い場所だった。


「こりゃすごい眺めだな、カリウス」


「うん。これ以上ない『死地』だね」


「もちろん、帝国軍にとって……だよな?」


「あぁ。まず、目の前の小川だ。幅は狭いが、底には泥が、石には苔が張っている。歩兵も車両も等しく足を取られ、這いつくばることになる」


「しかも、連中がもたついている間、身を隠せる場所はどこにもない。エグいなー」


「レオン、君の小隊は対岸の崖の上の森に伏せさせろ。帝国軍の歩兵が川の中で泥に足を取られ、まごついている瞬間を狙うんだ」


「了解。鉄条網を張る必要すらなさそうだな」


「やるなら崖上だろうね。崖下からは見えない場所に集中させたほうがいい。崖から這い上がった瞬間、奴らの心を折れる」


「さすが魔女の弟子……」


 カリウスは、小隊長たちと阻止線の地形を見下ろす高台にいた。


 ナイトメアのカリウス、

 人間のレオン、

 ドワーフのガストン、

 そしてオークのマルク、

 造命種のステラ、

 各種族の指揮官が勢揃いしていた。


「レオンの小隊は歩兵の2割を失い弱体化している。今回の戦いでは、前回よりも被害を押さえることに注力する」


「そりゃありがたいけど、どうやって?」


「狙撃戦――つまり、ステラたち造命種の出番だ」


 カリウスの言葉に、ステラが白い髪を揺らして頷いた。

 彼女は前方の川を指さすと、戦場の「流れ」を見据えるかのように続ける。


「中隊長のおっしゃるとおり、ここは狙撃戦を行うのにうってつけね。身を隠すものは少なく、さらに敵は川に沿って一列になる。遅くなれば偏差は取りやすく、崖と川の水の流れのお陰で風の流れは一定。外すほうが難しいんじゃないかしら?」


「頼もしい限りだ。ウィラーたち対戦車チームの補給状況はどうだ?」


「弾薬の補給は済んだわ。問題は配置ね。前回より危険になる」


「たしかにそうだな……」


 カリウスは、小川に架かった木造の橋を見た。

 橋の周囲は比較的開けてていて、こちら側に崖もなく、隠れる場所が少ない。


 橋の幅は4メートル程度、長さは10メートルほどで、太い丸太を複数本並べて梁にし、その上に板材となる鉄板を敷いた格好だ。


 床板を支える支柱は、丸太を小川の中に打ち込み、セメントで補強されている。


 この橋は、10トン級の貨物トラックが使うためものだ。アルデナの森で切り出した丸太を、ベリエや連盟に向けて運搬するために日常的に使われていた。


「ガストン。あの橋は帝国の軽戦車が渡っても問題ないんだな?」


「うむ。ビクともせんだろう。10トントラックに丸太を詰めば、軽くても20トン……25トンにはなる。帝国のワスプの戦闘重量が20トン。余裕じゃよ」


「ドワーフの見立てでは、橋の他に通れる場所はあるか?」


「ある。肥料運搬に使っていた農業道路が、橋の400メートル川下にある。そっちには橋がないが、川を分岐させて浅瀬にしとる」


「ふむ……第二阻止線で使わなかった地雷はそこで使おう」


「了解じゃ」


「ステラ。軽戦車が川をわたるには、橋か川下を使わざるを得ない。つまり、敵が通る場所はあらかじめ決まっているということだ」


「敵もそれは承知。警戒してこちらに突っ込んでくる。さらに対戦車砲の射線は水平に近い。崖上に置けば、多くの敵を逃がす。必然的に――」


 言葉を止めたステラに、カリウスが頷く。

 そうするべきだ、というように。


「私たちは、『敵を狙えて、敵にも狙われる』場所に置かざるをえない。よね?」


「そうだ。自走砲は崖の切れ目に配置せざるを得ない」


「視覚的には隠れているけど、心理的には暴露した状態での待ち伏せになるわね」


「今回は最初の待ち伏せとは状況が違う。射撃を受けても、敵はパニックにならないだろう。そこで狙撃班の手助けが必要になる」


「私たち狙撃班は、指揮官を優先的に排除するってことね」


「うん。川を渡ろうと、やっきになって兵を追い立てる指揮官を撃つんだ」


「おいおい、戦車対策はいいのか? いきなり狙撃の話になってるけど……」


 レオンが口を尖らせると、カリウスは彼を制止するように掌を向けた。


「いや、これは戦車対策の延長なんだよ。指揮官を失えば、戦車は怖くない」


「うーん、そうかぁ……?」


「当然だよ。戦車も砲も、勝手には撃てない。『誰が、いつ、どこを、何で撃つか』を決める頭が必要なんだ。その頭を落とせば、戦車は地面を這い回ってそこらを撃って掘り返すだけの、烏合の衆に変わる」


「第三阻止線のような〝上下〟のある地形なら、指揮官は前に出てハッチから頭を出さざるを得ないわ。戦車って目の前の同じ高さは見れても、上と下は見づらいから」


「……それ、信じていいんだよな?」


「あぁ。火力管制ファイア・コントロールを失えば戦車は怖くない」


「レオン君。戦いには武器だけでなく命令が必要なのよ。カリウスが今、ここで貴方に対してこうしているように、ね」


「なるほど、納得だ――」


 その瞬間だった。

 空気が震え、遠くで低い雷のような音が腹に響いた。


「砲撃だ! 伏せろ!」


 カリウスの叫びと同時に、大地が跳ね上がった。


 ドガァァァァァァン!!!


 爆風が森を薙ぎ払い、土と石が雨のように降り注ぐ。

 伏せた背中が爆風に煽られ、誰もが耳を押さえて地面に顔を押しつけていた。


「こりゃ105mmじゃ! 退避壕に走れ!」


 ガストンが叫ぶが早いか、塹壕の横に掘られた深い穴に飛び込んでいた。


 二発目が落ちる。

 崖の縁が崩れ、木の幹が裂け、破片が頭上を唸りながら飛び交う。


「魔女の弟子! これも計算のうち!?」


「んなわけあるか! とにかく隠れるんだ!」





次回、またまた久しぶりとなる戦闘、アクションパートです。

前回ほどでないにしろ、準備パートってけっこうかかりますね……


そういえば自然と元の世界の単位系をそのまま使ってますが

単位系は、この世界にトン博士とか、メートル伯爵がいるわけではなく

自動翻訳されていると思ってください(

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