さようなら
「5個師団も……! 兄さん、これなら……!」
「アデーレ、また後で話そう」
「え、はい……?」
兄に寄り添った妹は、怪訝な顔をした。
重なった兄の手に、わずかな震えを感じ取っていたからだ。
「無線はまだ大佐に繋がってるか?」
「はい。通信を替わりますね」
カリウスは、ティーゲル号の上から飛び降り、通信兵が背負っていた無線機から、受話器を取り上げた。
すると、無線の向こうから、ノイズ混じりの少し懐かしい声が聞こえてきた。
『魔女の弟子、聞いたぞ。戦車15両に12門は大戦果だな。正直、期待以上だ』
「ありがとうございます。ところで、援軍について通信士から聞いたのですが」
『あぁ。フロレンヌの後方に歩兵5個師団を配置する。ケルダン王直々のご決断だ』
「……配置はメース川に沿って西ですか?」
『そうだ。ゼレガルドより南西、メース川に沿って移動中だ。』
「なるほど。行軍隊形をそのまま配置につけるということですね。5個師団とお聞きしましたが、装備は?」
『――充足した師団だ。歩兵砲の他、榴弾砲を装備した砲兵大隊が付属している。また、半数は自動車化している。標準型戦車以外の装備はすべて揃っている』
「戦車以外はあると。指揮官はどなたです?」
『軍団の指揮官は、クンラート中将。ベリエ王家に連なるお方だ。』
(5個師団。標準的な編制なら、7万人規模だ……方面軍に相当する数だぞ? 明らかに多すぎる。それに王家の出身を指揮官に据えるって、どう考えても……)
「ひとつお聞きします。クンラート中将閣下は、ご存知なのですか?」
『閣下は委細承知の上だ。魔女の弟子である君なら理解できるな?』
「ベリエ全軍は60万人規模。その10分の1をここに送るということは、ベリエは戦う気があると――連盟に本気を見せろということですね?」
『そういうことだ。流石魔女の弟子。よく理解しているな』
「大佐、通信を終わります。……さようなら。」
「フランツ・カリウス。後は頼む」
「……はい。」
カリウスは無線機のラックに受話器を乗せ、無線を切った。
すると、無線機を背負っていた兵士が、興奮に頬を染めてまくし立てた。
「中隊長! 5個師団ですよ! このままなら、俺たち、勝てますよ!」
「気を抜くな。援軍が来るのは2日後だ。その間に何が起こるかわからない」
「は、はい。では、失礼します!」
無線兵の背中を見送ったカリウスが妹に振り返る。
その表情は、援軍を受けとったにしては、あまりにも影が深い。
「兄さん……?」
「アデーレ、きっと大変なことが起きてる。急いで中隊を移動させよう」
「大変なことって……大佐から、悪い知らせでも」
「いや、まだだ。でも、そのうちわかる」
第二小隊の隊長。レオンが金髪を揺らしてやってきた。
とっくに雨はあがったというのに、まだポンチョを付けたままだ。
(あっちも何かあったみたいだな)
「カリウス、急いでここを出ようぜ。偵察が帝国軍の先鋒を見つけた」
「来たか。さっそく出立しよう。負傷兵は、イヤーロップにまかせるのか?」
「あぁ。負傷者はトラック1台分だったからな。そのまま後送だ」
「そうか……レオン、援軍の知らせを聞いたか?」
「いや、援軍来るの? 俺たち、すっかり見捨てられたかと思ってた」
「あぁ。5個師団が来るらしい」
「すっげぇ大軍じゃん! あれ、ってことは……俺たち、勝っちゃう感じ?」
「勝てると思うか? 帝国軍は、こっちが1個の石を投げたら、100個の手榴弾を投げてくる相手だぞ。勝てると思うか?」
「夢見たっていいじゃん。それで、中隊長殿のご決断は?」
「最初と同じだ。撃って、逃げる。そして――撃って、逃げる。その繰り返しだ」
「了解。第三阻止線から先はどうするんだ?」
「……それは、その時に話すよ。状況次第で指示を変えるから」
「よし、期待してるぜ、銀魔女の弟子!」
「もちろんだ。第三阻止線では、歩兵は前より広げろよ。ペッカード対策だ」
「おう、わかった!」
援軍の知らせを聞いたレオンは、足取りも軽く自身の小隊に戻っていった。
しかし、それと対照的に、カリウスの表情は重苦しい。
兄の様子に、妹は不安げに胸に手をやっていた。
「兄さん……いったい何を隠してるんです?」
「アデーレ、君だけには伝えておくから、よく聞くんだ」
カリウスは、ティーゲルの砲塔の側に腰掛けていた妹を見上げる。
兄の二つの瞳には、戦いの前に抱く決意とは違う種類の何かが宿っていた。
「フロレンヌに送られてくるのは、戦うための援軍じゃない。逃がすための援軍だ」
「逃がすため……じゃあ、それって――!?」
「――ベリエは地図から消える。ケルダン王は、それを決断した。」
彼の周囲の空気がふっと薄くなる。
それはまるで、世界がひとつ、息をするのを忘れたようだった。
ホントはこんな交信しないけど、テンポが最悪かつ
意味不明になるので口語で行っています。




