パカッと開いて(1)
魔導ジャイロの残骸が作業台の上で冷たく光る中、縄で縛られた帝国兵アウルスは、地面に座り込んで震えていた。
「ひ、ひぃ……終わった……俺の人生、ここで終わりだ……ベリエ軍に捕まるなんて……絶対殺される……!」
「殺さない」
「えっ……ほんとに……?」
「お前には聞きたいことがある。アウルス。『これ』はどこの誰が作った?」
「あ、愛国連隊だ……! 俺は愛国連隊に所属――っていうか、押し付けられただけなんだけどよ……」
「愛国連隊? なんだそれは」
アウルスは涙目のまま、肩を落とした。
「あそこは地獄だ……」
「地獄?」
アデーレが眉をひそめる。
「地獄だよ! 帝国じゃ悪名高いんだ! 貴族様の思いつきを形にする実験部隊で、成功より失敗のほうが多いんだよ! 死傷者なんて数えきれねぇ!」
アウルスは両手を縛られたまま、必死に身振りで説明する。
「本部はな……『春の宮殿』って呼ばれてる場所だ。昔の皇帝が狩りの合間に使ってた別荘らしいけど、今はもう、貴族の見世物小屋だよ!」
「見世物小屋?」
フリンが呆れた声を出す。
「そうだよ! 火を吹いて回るホビンとか、風船爆弾とか……とにかく、思いついた兵器を片っ端から作って、囚人兵に試させるんだ!」
アデーレが顔をしかめる。
「話を聞くだけでも危険そうですね」
「危険どころじゃねぇよ! 昨日なんて、『魔導ダッシューズ』が暴発して、操縦士が森の向こうまで吹っ飛んだんだぞ!?」
「お前、よくそんなところで働けるな~」
頭の後ろで手を組んだフリンが「よくやるよ」という風に感想をこぼす。
すると、アウルスはシクシクと泣き出し始めた。
「好きでやってるわけじゃねぇよ! 俺なんか、居眠りして敬礼忘れただけで降格されて、『お前は愛国連隊行きだ』って……!」
「ぶっ、そんな理由で?」
「そんな理由でだよ! 俺は死ぬと思ってたんだ! でも今回の任務は『爆発しない機械の操縦』って聞いて、あ、これなら生き残れるかもって思ったんだよ!」
「あ、これって、あんたらからすると、当たりのほうなんだ?」
「そうだよ! 俺たち囚人兵は、開発が成功したら放免されるんだ。俺、技術とか全然わかんねぇけど、すげぇ良いところまでいってると思ってたのに……」
カリウスは少し考え、ふと口を開いた。
「……ところで、エーテルを使った対戦車兵器について聞いたことはあるか?
パンツァーファウストのような……こう、先の大きな棍棒みたいな形の」
カリウスは手で形を作ってみせたが、囚人兵は首を横にふった。
「は? パンツァー……何? そんなもん知らねぇよ!」
「そうか。戦車で使う砲弾については聞いてないか? 距離に関係なく装甲を貫ける、対戦車榴弾と言われるものだ」
「たいせんしゃ? ひーと?」
アウルスは本気で首を傾げている。
「愛国連隊は確かに〝爆発するもの〟ばっか作ってるけどよ……対戦車兵器なんて、そんなマトモな兵器、俺の知る限り聞いたことねぇよ」
「マトモな兵器を作らないって、なんのための機関なんだよ、それ……」
「俺が聞きてぇよ!」
(エマールで使われたアレは、これとは違う系統で開発されているのか? それとも、まだ本格的な実用化はされていない……?)
カリウスは思考を一度脇に置いた。
「……お、おい、待ってくれ! 知らないからって、そんなことで殺さないよな?」
「殺さない。他に、魔導ジャイロの操縦者は何人いる?」
「お、俺の班は3人だ。全部で10班。予備含め40機の魔導ジャイロを預かった」
「ということは、一人一機しか操作できないのか?」
「そ、そうだよ……」
「ふむ……使用目的は偵察か?」
「だと思う。カメラを搭載してる。ブレすぎてあんまちゃんと撮れねぇけど」
「なるほど。」
「あ、性能を隠してなんかいないぞ! 爆発しない以外は、本当に駄作なんだ!」
アデーレがカリウスに小声で囁く。
「兄さん……なんか、思ってたより……」
「……うん。だいぶ残念な感じだな」
「残念って言うなぁ!! 俺だって必死だったんだよ!! なのに捕まって……もう終わりだ……!」
「終わりじゃない」
カリウスが静かに言った。
「お前の命は保証する。その代わり、この兵器の使い方について、知っていることを全部話せ」
アウルスは涙をぽろぽろこぼしながら、必死に頷いた。
「は、話す! 全部話す! 俺、死にたくないんだよぉ……!」
カリウスは深く息を吐いた。
(良かった。今の段階のドローンは、俺が思っていたより性能が低い。ただ、今後の展開では本当に前世のウクライナと同じように、猛威を振るうだろうな)
アウルスの泣き声がようやく落ち着いたころ、カリウスは静かに立ち上がった。
鹵獲したドローンの回転翼が、ランタンの光を受けて鈍く光る。
その小さな機体は、小さく未熟だ。
――しかし、これから確実に洗練されていく。
この機体は未完成ながらも、そう遠くない未来に脅威になる可能性を孕んでいる。その事実は何ら変わりがなかった。
(……今はまだ玩具だ。だが、帝国が本気で改良を始めれば、必ず戦場を変える)
胸の奥に冷たいものが沈む。
だが同時に、わずかな安堵もあった。
(性能は低い。今なら、まだ対処できる。間に合う)
カリウスは振り返り、ガストンとフリン、そしてアデーレに目を向けた。
「――よし。こいつを分解しよう。フリン、ガストンを呼んでくれ。構造を洗いざらい暴いて、弱点を全部見つけるぞ。
「わかったよ兄ちゃん!」
「アデーレも手伝ってくれ。君のエーテル工学の知識が必要だ」
「はい。パカっと開いて、帝国の秘密を見てみましょうか」
アデーレが袖をまくって、重い工具箱をどんと机に乗せた。
(こういう時のアデーレは、本当に頼もしいなぁ……)
「うん。何が入っているか……ちょっと楽しみだね」
完全に蚊帳の外となったアウルスは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、震えながらも小さく呟いた。
「お、俺……生きてていいんだよな……?」
「あぁ。お前たちの『残念な発明』が、俺たちを救うかもしれない」
そう言うと、カリウスは卓上のドローンに手を伸ばした。




