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メッシーナの真実

「カリウス。お前さんはメッシーナで起きたことについて、どれだけ知ってる?」


「えっと……父の話では、銀魔女がメッシーナ要塞を一万人の守備兵ごと、魔法で吹き飛ばしたと。それで、普通では考えられないことがその後に起きたと」


「ふむ。詳しいことは聞かなかった、でいいのか?」


「そうですね。父も伝える言葉を選んでいたように思います。

ただ、エーテル災害が起きた。それは知っています」


「よし……銀魔女が陣地を吹き飛ばした後のことだ。スタインドルフ将軍は、爆発で空白になった帝国支配地の塗り絵を始めた」


「ありゃ、そんなことがあったのか」


「ガストンさんはご存知なかったんですか?」


「わしはメッシーナから離れとったからな。そいじゃアレか? スタインドルフ将軍は銀魔女の手柄を横から(かす)めたっちうことか?」


「いや、そうじゃない。スタインドルフ将軍じゃなかったら、その後の始末が着けられなかったろうな。ヤバイのは吹き飛ばした後だった」


「エーテル災害は、それほど危険なものなんですか?」


「あれなぁ……危険というか、なんというか……」


「?」


「見たことがないヤツにうまく伝えられるかどうか。俺は作家じゃないから、アレを説明するうまい言葉が思いつかん。一応やってみるが――」


「面白そうじゃ。やってみぃ」


「……よし、覚悟しろよカリウス。エーテル災害ってのは、お前さんがやったような魔法じゃない。似てるが、世界そのものが、ちょっとだけ狂うんだ」


「狂う……?」


「そうだ。あれは洪水や火事とは違う。世界の機嫌が悪くなる感じだな」


「???」


 おほん、と咳払いを一つして、ガルムが語り始めた。


「まず一つ目だ。メッシーナの北に小さな石橋があった。幅も狭いし、軍用車両は通れんような古い橋だ」


「はい」


「そこを渡ろうとした兵士がな……橋を渡り切ったはずなのに、気づいたら渡る前の位置に戻ってたんだ」


「へ?」

「なんじゃそら?」


「本人はちゃんと〝渡った記憶〟がある。だが足元は最初の場所。何回も橋を渡ろうとしたが、どうしても橋を渡れなかった」


「空間が……ループしてる?」


「そうだ。だが、その橋は渡るところを〝誰かに見てもらってる時だけ〟渡れた。

一人だけで渡ろうとしても、絶対に渡れない橋だった」


「一体どう言う理屈でそんなことに……」


「俺も知らん。ただ、あの橋は誰かに見られてないと成立しないみたいだったな」


「今のは面白かったぞ。他にもあるのか?」


「あるぞ。ある日の夕方、歩哨の影が地面から離れて歩き出した」


「えっ」


「だが、本人はそれに気づいてない様子だったな。歩き出した影はそのまま荒野の奥へ消えていっちまった」


「ちょ、その歩哨はどうなったんです?」


「次の日、兵士の中身だけが消えて、服だけが立っていた。触るとその場で服は崩れ落ちたが、ヘルメットは何も支えがないのに宙に浮いていた。ヘルメットを触ってみると、それも落ちた。歩哨の行方は誰も知らない」


「えぇぇ……」


「おお、本格的な怪談じゃな」


「最後は……まぁ、役に立ったやつだ」


「そういうのもあるんですか?」


「あぁ。大半は意味不明でどうしようもなかったが、稀に役に立つものもあった。

廃屋の暖炉が、燃料もないのに延々と燃え続けてた。

火は弱いんだが、息を吹きかけようと、土をかけようと、絶対に消えん」


「今までの説明の中で、一番魔法っぽいですね」


「俺たちはその怪奇現象のご相伴にあずかってな。

暖炉の上にメス・キット(皿とお玉を兼用した食器)を置くと、

いつまでも温かいままなんだ」


「……それは、便利ですね」


「気味が悪いのを我慢すれば、便利だった。

火は燃えてるのに、煙が出ん。薪もないのに、火だけがある。

火の形をした何かがそこにある感じだったな」


「……エーテル災害って、何か悪意がある感じではないんですね」


「うん。悪意とは違うな。世界の底が割れちまった結果、変なモンが漏れ出す……みたいな感じかね。良いも悪いもない。ただ、奇妙な現象だけがそこにある」


「つかみどころがないですね」


「わからない。それが本質なのかもな。メッシーナで銀魔女がやったのは単なる破壊じゃない。いってみれば、俺たちの世界の皮(常識)を一枚剥いだんだ。正気を引っ剥がしたその下から、本来見えないものが頭を出した」


「……父が言葉を選んでいた理由が分かりました」


「あぁ。あれは見た者の心の中に変な影を落とす。わからない。変だ。怖い。だが、それと同時に『利用できるかも』と思わせる、気まぐれな魅力もある」


「ただ危険なだけなら、放っておけるが……タチが悪いのぉ」


「まったくだ」


「今になって、メース川にエーテル災害が起きてないか心配になってきたな……」


「それは大丈夫だろ。銀魔女がやったのはもっとすごかったからな。お前さんがやったのも十分イカれてたが、銀魔女の比じゃない」


「そんなに……?」


「あぁ。」


「……どういう現象が起きたんです?」


「まず、メッシーナ要塞が消えた。爆発で吹き飛んだんじゃない。文字通り『消えた』んだ。壁も兵器も兵士も、影一つ残さずな」


「跡地はどうなったんじゃ?」


「……地面が真っ平らになってた。まるで巨大なヘラで撫でつけたみたいに、丘も壁も全部、均一な平面になってた。地面ごと『削除』された感じだった」


「桁が違いますね……それに、理解もできない。これが銀魔女……」


「言ったろ。お前さんの魔法も十分イカれてたが、銀魔女の比じゃないってな」


 ガルムはそういって、ビスケットの最後の一枚を割った。


 その時森の奥から造命種たちが帰ってきた。

 だが、行きと比べて彼らの人数が〝増えて〟いる。


「……あれ?」


「おぉ? まさかあれもエーテル災害かの?」


「んなわきゃあるか――シャッフェンの後ろにいる連中……ありゃイヤーロップだ」


「イヤーロップ?」


 カリウスが目を凝らすと、小柄なシャッフェンたちと同じくらいの身長の、白い毛皮に覆われた姿が見える。毛に覆われた、柔らかそうな長い耳を持っているのは――


「ウサギ?」


 造命種と一緒にいるのは、ウサギの獣人だった。

 彼らは背中に荷物を背負っているが、リュックの横にはライフルが見える。

 どうもただ事ではなさそうだ。


「……何か問題が発生してそうですね。行ってきます!」


 カリウスは二人の間を立ち上がり、偵察に出ていた彼ら(シャッフェン)のもとに向かった。



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