彼らの色
ファフニール隊は引き続き訓練に励んだ。
その中で、シャッフェンたちの動きだけが、明らかに異質だった。
フユは無言で丘の端で偽装の中に腹ばい、狙撃姿勢を取る。
その動きは、まるで録画した映像を再生するかのように滑らかだった。
ウララは風向きを読み、距離を測り、フユの横にぴたりと寄り添う。
「12-13、風速3。距離400。2シュトリヒ補正」
「了解」
二人のやり取りは、まるで呼吸を繰り返すかのように何気ない。そしてステラは、各小隊の動きを観察し、必要な場所にシャッフェンを配置していく。
「第二小隊の左翼に穴ができている。3名、補助に回れ」
「了解」
シャッフェン3名が無音で移動し、人間兵士たちが思わず息を呑む。
「えっ、いつの間に?」
「なんだあいつら、足音がしねぇぞ」
「なんで無線もないのにあそこまで正確にやり取りできるんだ……?」
だが、誰も文句は言わなかった。
その動きが、あまりにも正確すぎるからだ。
シャッフェンたちは、すべての動きを先読みしていた。
フユの狙撃位置は完璧。ウララの観測は誤差ゼロ。
ステラは全体の動きを把握し、必要な場所に必要な兵力を送り込む。
経験からくる予測とは、何かが違う。
一種の予知のような動きで、他の兵士たちを圧倒していた。
「ゾッとしねぇな」
「あそこまで的確に動かれると、逆に怖えな」
兵士にざわめきが広がる中、カリウスは静かに全体を見渡した。
(こちらが指示をする必要がまるでない。……あれが造命種か。)
その時ふと、カリウスの中の狩生が、前世にしていたゲームの内容を思い出した。
(シャッフェンは多分、前世で言うところの、ホムンクルスだろうな。すべての知識を持って生まれるとか何とか……あの動きの理由は、それなんだろうか?)
「状況終了!! 繰り返す、状況終了だ!!」
訓練終了の号令が響くと、丘の上に張り詰めていた緊張がふっと緩んだ。
だが、兵士たちは誰一人として気を抜かなかった。
むしろ、すぐに互いの動きを振り返り、問題点を指摘し合い始める。
「第二小隊、射撃線の展開が一拍遅れてたぞ」
「悪い、丘の傾斜を読み違えた。次は修正する」
「オークの火力支援、タイミングは良かったが……あれじゃ味方を殺しかねんぞ」
「だども、歩兵が詰まりすぎてて……もう少し散開してくれれば」
それぞれが遠慮なく指摘し、遠慮なく受け止める。
混成中隊でありながら、妙な一体感が生まれつつあった。
その中で――シャッフェンたちは、静かに輪の外に立っていた。
フユは無表情のまま、ウララは淡い笑みを浮かべ、ステラは腕を組んで、全体を観察するように目を細めていた。
カリウスが近づくと、ステラは軽く会釈した。
「カリウス中隊長。初動としては悪くないわね。ただ、私たちが協働しようとすると、かえって皆とのズレが大きくなる」
「……ああ。お前たちの精度が高すぎるんだ」
「私たちは火消しとして、連携のギャップを埋めるのが良いと思うけど、どう?」
「それで構わない。その方が実力を発揮できるだろう?」
「えぇ。」
歯に衣着せない断言に、カリウスは苦笑した。
シャッフェンの動きを見ていると、前世の記憶が胸をよぎる。
ロボット兵士。AI兵器。
いつか必ず現れると予想されていた未来の兵士。
だが――目の前のシャッフェンは違った。
彼らは機械ではない。その動きは、プログラムされたものではない。
もっと人間に近い〝何か〟だ。
(……元の世界は、どうなるんだろうな)
ふと、そんな不安が胸をかすめた。
ステラは、そんなカリウスの内心を見透かしたように言った。
「私たちは兵器として作られたけど、その役目が終わった後、自分たちで生きる理由を見つけた子もいるの。それだけは忘れないで」
「うん。君たちを〝道具〟として使い潰そうなんて考えていないよ」
少し離れた場所で、アデーレはシャッフェンたちをじっと見つめていた。
彼らは一見すると全員、同じ顔に見える。
同じ肌、同じ髪色、同じ体格。
まるで工業製品のような均質さ。
だが――アデーレには、ひとつだけ違いが見えていた。
(……エーテルの色が、違う)
フユは淡い青。
ウララは桃色に近い光。
ステラは輝くような白色。
魂の色とも呼べるその輝きは、人間と同じように個性を持っていた。
(彼らは……造られた命なんかじゃない)
説明できない複雑な感情が胸に広がる。
恐れでも、嫌悪でもない。
ただ、強烈な興味と――ほんの少しの親近感だった。
「なあ、カリウス」
レオンが肘でつついてきた。
「シャッフェンの女の子って……彼女にできるのかな?」
「……お前は本当に、緊張感ってものがないのか」
「いや、ほら、ウララって可愛いじゃん?
ああいう無表情系って、ギャップが良いというか――」
「やめろ。ステラに聞かれたら、きっと殺されるぞ」
「え、あの人そんな怖いの?」
「まちがいなく、お前の軽口に耐えられるほど優しくはない」
レオンは「そっかぁ」と妙に納得した顔をした。
「……お前、史学科なのに、戦史は知らないのか?」
「あんまし」
「うちに送られてきた造命種たちは前大戦の生き残りなんだ。
なんで女性型が多いと思う?」
「後方にいたから? あー……そういう『任務』ね……」
「ヘラヘラ笑ってたら、もぎとられるぞ」
「ひぇっ」
そのとき、丘の下から重いエンジン音が響いた。
ゴォォォォ……
ティーゲル号の主砲がわずかに揺れ、続いて標準型戦車と対戦車自走砲が列を成して動き出す。整備班が走り回り、砲手たちが露砲塔に潜り込むように飛び乗った。
「――自走砲チーム、準備完了しました!」
顔にオイルのしみを作ったフリンが駆け上がってきて、カリウスに敬礼した。
カリウスは深く息を吸い、頷いた。
「よし。次は機甲部隊の訓練だ。全員、配置につけ!」
丘の上に再び緊張が走る。
ファフニール中隊の主力が、いよいよその姿を現そうとしていた。




