造命種――シャッフェン
そのざわめきの中で、ひときわ異質な静けさをまとった一団が歩いてくる。
――白い。
最初にカリウスが抱いた印象は、それだった。
肌は陶器のように滑らかで、いぼも染みもない。
髪は色素を失ったように淡く、光を吸わず、影も落とさない。
顔立ちは整っているのに、なぜか印象に残らない。
まるで〝人間の平均値〟を抽出して造形したような、均質な美しさ。
(ちょっと待て、もしかしてあれって……)
カリウスは、丘を登ってくる存在に心当たりがあった。
スタインドルフ将軍の書庫。
そこにあったヨーロッパ大戦の戦史をまとめた資料。
そのなかでほんの数行だけ言及されていた存在。
造命種――シャッフェン。
前大戦で大量生産され、今は生き残りしかいない禁忌の兵士たち。
不老で、損傷してもエーテル技術で修復される〝造られた命〟。
丘を上ってきたのは20人ほど。
そのほどんどが女性で、そのうち三人が前に出た。
先頭の男は、雪のように白い短髪を自然に整えている。
背筋は板を通したかのように真っ直ぐで、歩幅は寸分の狂いもない。
「フユ。狙撃班です。エーリッヒ大佐の命令で出頭しました」
名乗りは簡潔で、声には抑揚がない。
だがその瞳は、獲物を狙う鷹のような鋭さを宿していた。
その隣に立つ女性が、軽く会釈する。
「ウララ。観測手。フユのバディです」
そう名乗ったのは、長い髪を後ろでまとめた白い少女。
柔らかい声だが、どこかつくられた丁寧さが滲む。
笑顔は美しいのに、どこか心無い。
最後に、一歩前へ出た小柄な女性が、周囲を見渡した。
「ステラ。造命種コミュニティの代表として、当中隊に配属されました。以後、よろしくね」
彼女だけは、わずかに人間味のある声音だった。
だがその目の奥には、冷静な計算と距離感がある。
周囲の兵士たちがざわつく。
「……シャッフェンが20人も?」
「大佐のはからいってワケか?」
「ツギハギ野郎が増えるのかよ……」
小声の蔑称が混じる。
だが三人は、まるで聞こえていないかのように微動だにしない。
ステラが一歩進み、カリウスに視線を向けた。
「あなたがカリウス少尉ですね。我々は、あなたの指揮下で戦います」
その言葉は礼儀正しいが、どこか確認のようでもあった。
造られた命が、自然に人間へ従うわけではない――そんな含みを感じさせる。
アデーレが小さく息を呑む。
フユとウララの視線が、同時に彼女へ向いた。
その目は、好奇心とも、警戒ともつかない。
カリウスは短くうなずいた。
「……ようこそ。戦力として期待している」
その瞬間、三人の表情がわずかに変わった。
それは安堵でも喜びでもない。
ただ、命令を受け入れた兵士の顔だった。
◆
造命種――シャッフェン。
その起源は、前大戦の最終局面に遡る。
国家が疲弊し、人間の兵士が枯渇したとき、
禁忌とされた〝造命術〟が軍事利用された。
エーテル工学と古代魔術の融合。
魂の代替としてエーテル核を埋め込み、
肉体は人工的に成長させ、老化を停止させた。
結果として生まれたのは、
「死なず、老いず、修復可能な兵士」
という、戦争のための理想的な兵器だった。
だが戦後、造命術は国際条約で全面禁止された。
魂なき兵士は人間の尊厳への冒涜とされ、造命種の新規製造は犯罪となった。
残されたのは、戦場を生き延びた数千名のシャッフェンだけ。
彼らは不老ゆえに、戦後数十年が経っても姿を変えない。
社会は彼らを恐れ、嫉妬し、時に崇め、時に蔑む。
軍は彼らを戦力として重宝するが、
市民や兵士は「ツギハギ野郎」と呼んで距離を置く。
そんな中で、ステラは造命種コミュニティの代表として、
人間社会との折り合いをつけるために奔走してきた。
フユとウララは、前大戦の最終局面を生き残った最古参だ。
戦場での経験は、普通の兵士の何十倍にも及ぶ。
彼らは兵器として造られた。
戦争が再開された今、彼らは再び必要とされた。
――兵器、あるいは〝道具〟として、使い潰されるために。
それが、造命種である彼らの宿命だった。
◆




