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第7話 「囲まれない」
訓練は、人数だけが増えた。
新兵の班は三人。
相手は六人。
「前に出るな」
隊長はそれだけ言った。
開始と同時に、新兵は動く。
下がるのではない。
横にずれる。
背後の空間を残したまま、角度を変える。
一人が正面に残り、
残りが左右に散る。
距離は保っている。
だが、線が細い。
新兵は、さらに半歩、位置をずらした。
正面の一人と、他の五人が一直線にならない。
相手が詰める。
新兵は突かない。
投げもしない。
ただ、角度を変える。
一瞬、六人の足が止まった。
「そこだ」
隊長の声。
味方が前に出る。
新兵は下がる。
距離が、崩れない。
模擬戦終了。
誰も触られていない。
隊長は短く言った。
「囲まれてない。
それでいい」
夜。
新兵は教本を開く。
ページの端に、昼の言葉を探す。
「敵の数を見るな。
立つ位置を見ろ」
新兵は、余白に書いた。
――正面は、一つでいい。
囲まれなければ、
数は脅威にならない。
その夜、眠りは深かった。




