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第4話 「半歩でいい」

模擬戦だと告げられた瞬間、新兵の喉が鳴った。

相手は先輩隊員。

短槍を構え、間合いを保ったまま、じりじりと動く。

――近い。

新兵は、これまでの訓練を思い出す。

距離を見る。

動きを見る。

先輩が踏み込んだ。

新兵は、半歩下がり、槍を突いた。

先端は、空を切る。

避けられた。

「まだだ」

隊長の声が、遠くで聞こえる。

先輩は退かない。

逆に、詰めてくる。

新兵は、思わず一歩前に出た。

その瞬間だった。

先輩の槍が、胸元に触れた。

「そこまで」

隊長の声で、模擬戦は止まった。

新兵は息を切らし、歯を食いしばる。

――やった。

失敗した。

だが、隊長は怒らなかった。

ただ一言、問いかける。

「今の一歩、必要だったか?」

新兵は答えられなかった。

夜。

教本を開く。

短槍の項に、簡単な一文があった。

「突きは半歩でいい。

一歩は、相手の距離だ」

昼の感覚が、胸に落ちる。

一歩前に出た瞬間、

距離は“自分のもの”ではなくなった。

新兵は、行の横に書き足した。

――近づいたんじゃない。

――踏み込まれた。

その夜、脚の疲れとは違う重さが残った。

だが、確かに何かを掴み始めていた。

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