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第2話 「距離を見る目」

訓練は、拍子抜けするほど地味だった。

剣も槍も持たされない。

新兵はただ、隊員の前に立たされた。

「動くな」

隊長が言う。

一人の隊員が、ゆっくりと歩いて近づいてくる。

武器は持っていない。

それでも新兵の肩が強張った。

――近い。

そう感じた瞬間、隊長の声が飛ぶ。

「今だ」

反射的に、新兵は一歩下がった。

「遅い」

隊長は首を振った。

「お前が“怖い”と思った時には、もう遅い。

 距離は、感情じゃなくて数で測れ」

何度も繰り返された。

近づく。

止まる。

下がる。

新兵は次第に気づき始める。

足音。

重心の移動。

踏み込みの癖。

相手が“動く前”に、距離が縮む兆しがある。

次の番。

同じ隊員が歩いてくる。

新兵は、怖くなる前に半歩下がった。

「……今だ」

隊長の声が、少しだけ遅れて届く。

初めて、褒め言葉が落ちた。

「それだ。

 相手を見るな。“動き”を見ろ」

新兵は息を整えながら思った。

自分は、前に出られないのではない。

近づかれる前に、気づいていただけなのだと。

訓練が終わる頃、新兵の足は疲れていた。

だが、頭は冴えていた。

距離は、逃げではない。

準備だ。

新兵は、少しだけ胸を張って列に戻った。

夜。

新兵は、支給された教本を開いた。

今日の訓練の項に、線を引く。

「敵の攻撃範囲に入ってから反応するな。

入る前に動け」

昼間の隊長の声が、重なった。

――怖くなる前に、動け。

新兵は、初めて教本が

命令書ではなく、経験の記録だと分かった。

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