第15話 「認められる風走り」
朝、森を抜けると、視界が開けた谷が広がっていた。
今回の任務は、商隊の護衛と盗賊の動向確認。谷は細い道しかなく、斜面は滑りやすい泥や岩で覆われている。列の誰かが滑れば全体が危険に巻き込まれる。
新兵は半歩後ろに下がり、仲間との距離、足元、周囲の音に神経を張り巡らせた。
藪の向こうに、矢の影がちらり。
矢が飛ぶ。仲間の一人が反射的に身をひるませる。
新兵は即座に半歩下がり、列の角度を変え、仲間を矢の射線から守る。突かず、投げず、体と判断だけで守る。
先輩たちの投擲槍が飛ぶ。敵が後退し、列に余裕が生まれる。
斜面の影に身を潜め、息を整えながら新兵は次の判断を下す。
半歩ずつ横にずれ、列全体を滑らせないよう誘導。敵はじりじり迫るが、谷の道を封じられ、動けない。
小川を渡る手前、敵が一人、斜面の岩陰から飛び出してきた。
先輩が投げた槍で足元を崩し、敵はひるむ。
新兵は瞬時に短槍を構え、角度を調整して一突き――槍先は敵の隙間を突き、倒れる。
残りの盗賊も、先輩たちの投擲槍の牽制で動けない。
新兵は列を守りつつ、もう一度槍を投げ、最後の敵を谷の斜面に追い込み討つ。
戦闘は終わった。列は無傷。誰も怪我をせず、盗賊は討たれた。
新兵は、必要な時だけ行動し、最小限の力で最大の効果を出す判断を体で覚えた。
任務を終えた夜、焚き火の周りに列が集まっていた。雨上がりの湿った風が、森の匂いを運ぶ。
新兵は一日を振り返りながら、焚き火のそばに座る。教本を手に取り、これまで学んだことを静かに確認する。
「風のように入り、影のように消える――生き延びるための判断を最優先せよ」
教本の文字が、今日の体験と重なった。
半歩の判断、角度の調整、仲間を守る行動――すべてが、風走り隊の教えそのものだった。
新兵は初めて、自分の判断で仲間を守れたことを実感し、胸の奥が熱くなる。
隊長が新兵の前に歩み寄る。火の光が、濡れた鎧と槍に反射する。
「お前はもう、風走りだ」
その一言に、新兵の肩の力が抜ける。
教本で学んだこと、実戦で試したこと、雨の日も川沿いも森の戦いも――すべてが繋がり、一つの判断として自分の中に定着した瞬間だった。
新兵は小さく頷き、教本を閉じる。
体と学び、経験と判断が一体になった夜。
生き残るために必要なすべてを、今、手に入れたのだと、静かに確かめる。
焚き火の炎がゆらめく中、新兵は小さく息をつく。
風走りとしての第一歩が、確かに踏み出された夜だった。




