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第12話 「同じ距離はない」

翌日。

夜明け前から、雨が降っていた。

街道は暗く、ぬかるみ、音が吸われる。

新兵は、昨日より足を慎重に運んだ。

距離を取る。

前に出ない。

昨日、できたことだ。

――同じだ。

そう思った瞬間、隊長の声が入る。

「違う」

短い。

だが、はっきりしている。

「昨日と同じ距離を測るな」

新兵は、足を止めた。

雨粒が、兜を打つ。

地面の音が、消えている。

「音がない日は、距離が近い」

隊長は、前を見たまま続ける。

「滑る地面では、半歩が一歩になる。

 昨日の間合いは、今日は死ぬ」

新兵は、息を整えた。

昨日の成功を、頭の中から一度消す。

教本にあった言葉が、遅れて浮かぶ。

「環境は距離を変える。距離は常に測り直せ」

今日は、読む必要はない。

もう、分かっている。

新兵は、歩幅を詰めた。

同じ速さではなく、同じ“判断”で進む。

雨は、止まない。


街道を外れ、森に入る。

視界は悪く、足場は不安定だ。

隊列が、わずかに乱れた。

左。

仲間の足が滑る。

――近い。

盗賊が、距離を詰めてきている。

剣の間合いだ。

隊長の合図は、まだ出ない。

新兵は、迷った。

前に出るな。

距離を壊すな。

教えが、頭をよぎる。

だが――

そのままでは、仲間が斬られる。

新兵は、一歩ではなく、半歩前に出た。

投げない。

突かない。

槍を、横に出す。

盗賊の動線に、ただ“置いた”。

刃が、止まる。

ほんの一瞬。

その隙に、仲間が体勢を立て直す。

隊長の手が、上がった。

「今だ」

別の角度から、投擲槍が飛ぶ。

盗賊は倒れ、残りは引いた。

新兵は、息を吐いた。

隊長が、横に立つ。

「前に出たな」

責める声ではない。

「一歩か?」

「……半歩です」

隊長は、短く息を吐く。

「それならいい」

それだけだった。

夜。

新兵は、教本を開く。

「仲間を守る時、距離は共有される」

新兵は、余白に書いた。

――距離は、独りのものじゃない。

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