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第10話 「迷ったら引け」
訓練は、不意に始まった。
合図もない。
配置も決まっていない。
隊長は、ただ言った。
「状況を作れ」
敵役が動く。
数は同じ。
距離もある。
新兵は、判断に迷った。
行ける。
引ける。
どちらも、間違いじゃない。
一瞬、止まる。
その瞬間を、隊長は見逃さなかった。
「引け」
声が飛ぶ。
新兵は、すぐに下がった。
退路はある。
距離は壊れない。
訓練終了。
隊長は、新兵の前に立つ。
「今、どう思った?」
新兵は正直に言った。
「……行ける気もしました」
隊長はうなずく。
「そうだろうな。
だが――」
少し間を置いて、続けた。
「迷ったな」
新兵は、黙ってうなずいた。
「なら引け。
迷いは、距離を壊す」
夜。
新兵は教本を開く。
判断の章に、短い一行。
「迷ったら引け。
迷わず引け」
昼の声が、はっきり重なる。
正解を選ぶ必要はない。
生き残る方を選べばいい。
新兵は、余白に書いた。
――迷いは、危険信号。




