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第1話 「前に出られない者」

新兵は、自分が臆病だということを知っていた。

剣を握れば手は震えない。

命令があれば前にも進める。

だが――「自分から前に出ろ」と言われた瞬間、足が止まる。

村の訓練場で、皆が声を張り上げて剣を振る中、

新兵は一歩後ろで、距離ばかりを見ていた。

「臆病者」

誰かがそう言ったわけではない。

だが、そう呼ばれても否定できなかった。

戦争は、前に出る者が偉い。

剣と盾で押し合い、槍と弓で削り合う。

退く者は、弱い。

――少なくとも、そう教えられてきた。

だから普通の部隊には向いていない。

自分でも分かっていた。

それでも、新兵は戦場に出ることを諦めきれなかった。

生きるために戦うしかない時代だったからだ。

そんな時、酒場で耳にした噂が、胸に残った。

「風走り隊はな、逃げることを前提に戦うらしい」

「前に出るより、引く判断を重く見る」

「生きて帰ったやつを叱らない部隊だ」

笑い話のように語られていた。

臆病者の集まりだ、と。

だが新兵は、その言葉を何度も思い返していた。

――逃げることを、前提に。

ある夜、寝床で天井を見つめながら思った。

前に出られないのは、弱さだと思っていた。

だが、距離を見てしまうのは、

退路を探してしまうのは、

生きたいからじゃないのか。

もしそれを「役に立つ」と言ってくれる場所があるなら。

翌朝、新兵は志願書に名前を書いた。

風走り隊――その名の横に、迷いはなかった。

入隊初日。

整列した新兵たちの前で、隊長は短く言った。

「前に出るな」

ざわつく空気の中、隊長は続ける。

「俺が合図する。

 合図がないなら、前に出る理由がないってことだ」

新兵は、その言葉を聞いて、初めて息が楽になった。

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