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あなたが選ぶ道は

作者: かな太
掲載日:2025/12/09

『嘘をついたのは、初めてだった』に勝手に参加しています。怒られたら削除します……。

 嘘をついたのは、初めてだった。


「ねえお母さん、ぼくのお父さんが勇者ってほんとう?」


「ええそうよ」


 最愛の息子が瞳をキラキラと輝かせながら、確信を持ってそう尋ねる。私は初めて息子に対して嘘をついた。

 この嘘がこの先どんな結末になるかは分からない。我が子は私に幻滅するかもしれないし、どうしてそんなことをしたのかと責めるかもしれない。ただ、それでも、願わくば……。



 私は世界を救う勇者一行の聖女として、各地を旅しながら魔族と呼ばれる人々と戦ってきた。そう、人々だ。彼らは肌と瞳の色が違うだけで、人族と同じように文化を持ち、家族を愛し、仲間を大事にし、仇を討つために武器を取る種族だった。

何百年と続いてきた戦いだ。最初の諍いは分からない。ただ私は、魔族を滅ぼすための旅に聖女として随行しながらも戦いに疑問を持ち続けていた。

魔族を絶対悪とする教会の教義には背く考えだ。それでも、戦いの中で仲間の死に涙を流す魔族を見るたびに、家族を逃がそうとする魔族を見るたびに、残虐非道な行いをしているのは人族ではないかと、そう思ってしまう。


和平に向けて話し合いをすれば、魔族と人族は戦わなくていいのではないか?本当に彼らは世界を滅ぼそうとしているのか?


勇者は私の悩みを真剣に聞きながらも、「戦うことで人族を守らなければならない。そう命じられた。私は国に背くことはできない」と言った。

戦士は私の悩みを笑い飛ばして、「アイツらが人族と同じであるはずない。あんな肌の色してるやつらだ、人間様の真似事をしているだけだ、感情なんてあるはずねえ」と言った。

魔法師は「いままで流した血が多すぎる。いまさら戻れはしないほどに戦いの歴史が長すぎる。同胞の流した血の分だけ、相手にも血を見てもらわねばならない」と言った。


そんな折に、一人の魔族と出会った。魔族の男は川縁に腰掛けて煙が上がる村を眺めていた。その村は、勇者一行であるわれわれが滅ぼした魔族の村だった。

村を眺める瞳から、静かに流れる雫を見た。肌の色も瞳の色も違ったけれど、流れる雫の清らかな美しさに、人族も魔族もないのだと心の底から後悔が押し寄せてきた瞬間だった。いままでは綺麗事を並べたてながらも、村を滅ぼすための行動をやめなかったのだ。それは、ただ自分のしていることが正しいと信じている戦士よりもタチが悪い行いだったのではないかと痛感した。


「ごめんなさい」


私はその男の前に進み出て、武器を捨てて跪いた。このまま殺されてもいいと思った。自分たちの行いは間違いだったのだ。教義に背いても、和平に向けて動かなければいけなかったのだ。いまさら後悔しても遅いのに。

男は何も言わなかった。冷たい一瞥をくれただけで、村を眺めながら静かに涙を流していた。


それからの聖女は、魔族との戦いをやめさせるように嘆願し続けた。嘆願する影で村を襲う仲間から魔族をかばった。情報を流し、助かってほしいと祈りながら魔族を逃した。

裏切り行為はすぐに仲間にバレた。戦いをやめるように訴えているのだ。バレて当然だった。異端者の烙印を押され、捕えられた。国に戻れば処刑されるに違いなかった。


そこから助けてくれたのは、いつか煙をあげ続ける村を眺めて静かに泣いていた魔族だった。

彼は争いを憎んでいた。自分の身を捧げることで争いが終結するなら、それも辞さないと言った。

しばらく共に過ごすうちに私の考えを打ち明けるようになった。彼は「僕もそう思うよ、流れた血は多いかもしれない。でも和平に向けて動ければこれから流れる血は止められる」

いつしか、私は彼に惹かれるようになっていた。


彼が拠点を置く街に、ついに勇者一行が攻め込んできた。


「魔族の王よ、その首をいただく。平和のために!」


高らかに宣言する勇者。

彼は魔族の王だった。

聖女を見て、静かに微笑んだ。

そして、勇者に殺された。


私も彼と一緒に戦うつもりだった。だけど、彼はそれを許さなかった。お腹に、彼との子供がいたから。


あなたの父親は魔族の王。

けして勇者とは呼ばれていなかったけれど、私にとっての英雄は彼だけだった。

誰よりも争いのない世界を望んでいた、偉大な王。争いのない世界になるならと自らの命を差し出した王。


勇者一行は、王を討ち取ったことで油断していたのかもしれない。それとも、かつての仲間だった聖女が目の前に現れたことで動揺したのだろうか。

彼らを殺すのは、身重の聖女でも簡単なことだった。


聖女は勇者を送り込んだ国に対して、魔族の王が死んだこと、戦いで自分以外の仲間は全員死んだことを報告した。幸いにも聖女の裏切りはまだ国にバレてはいなかった。


そして、褒章の儀式の最中に国王、王妃、王子、王家に連なるものを全員殺した。彼を失った魔族たちが聖女に力を貸してくれたので、何も難しいことはなかった。

もっと早く、こうするべきだったのに。


聖女は、人族の国を滅ぼして魔族の国を作った。そこは魔族を悪としない国。人族も魔族も平等に暮らす国。戦いを憎んだ彼には、手段を選ばないやり口を非難されるかもしれない。でも、この子を守るためにはこうするしかなかったとも思う。


この子はこの土地の新しい王。

人族と魔族を結ぶ希望の王。

それとも、人族を滅ぼす希望の王?

どちらを選ぶのかしら。

徐々に発現してきた魔族特有の肌と瞳の色。

この子の父親が誰か、その死を知った時どういう反応をするのだろう。種族を超えて愛し合った私たちを恨むだろうか。人族を虐殺した私を恨むだろうか。どんな選択をするのだろうか。

願わくば、あなたの選択が戦いのない未来、友好の礎になりますように。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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