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バルザークと料理配信

夕方。スーパーでのひと騒動を乗り越えたあと、結月の自宅――。


「……で、本当にやるの? 料理配信」


「当然だ。魔王軍第四実行部隊の名に懸けて、全世界に“食の覇道”を示すのだ」


「覇道って……戦国時代じゃないんだから」

結月はスマホを構え、画面越しにバルザークを映しながら苦笑する。


台所には、スーパーで買ってきた材料が並んでいる。


豚肉、野菜、卵……その他もろもろ。あと、なんとなく連れてしまったチキリウス(現在は家にあったケージ内でピヨピヨ中)。


「……よし、配信スタートっと」


ピッ。


配信が始まる。コメント欄には、さっそく視聴者の書き込みが流れはじめる。


【また来ちゃったw】【厨二病全開きたwww】

【相変わらずの服装ww】【バル様ーーー!】


バルザークは堂々と画面に向き合い、静かに語りはじめた。


「――よくぞ集った。我が名はバルザーク・ヴァルト=ヘルフェン。魔王軍第四実行部隊総帥である」


【魔王軍いいねえwww】【タイトル詐欺じゃないよね?料理するんだよね?】【ガチで貴族っぽくて笑う】


「本日はこの“人間界の食材”を用い、儀式――目玉焼きと豚肉とやらを焼いていく」

【ただの目玉焼きなのに語りが重い】【えっ儀式!?】

【全力でボケてるけど、目がマジなのおもろすぎる】


バルザークは卵を手に取ると、静かに目を閉じた。

そして――指を鳴らす。


「《浮遊術・ゼフィリオン》」


 ふわっ。


 一つの卵が、ゆっくりと空中に浮かび上がる。重力を無視するように、ゆらりとバルザークの目の前で静止する。


「うわ、マジで浮いた!? ちょ、ブレてるブレてる……!」


結月があわててスマホの画面を立て直す。


【え!?卵浮いた!?】【これはCGやろ……】

【ただの卵なのに威厳すごい】【今の呪文名ください】


「この殻の中には、世界の真理が眠っている。

 ゆえに――慎重に、しかし迷いなき一撃で割る!」


 彼は宙に浮かんだ卵に手刀を振る――


 カンッ!


 絶妙な角度で割れた卵が、トロリとフライパンの上に落ちる。

 魔力で誘導された黄身は崩れず、見事な円を描いたまま静かに焼かれ始める。


【卵割っただけで名場面すぎるw】

【顔うけるwww】【エフェクトつけたら完全に必殺技】【サーカスやんww】


 バルザークは真剣な顔で、ゆっくりとうなずく。


「……成功だ。魔力の制御と手技の融合――この世における“完璧な割り”であったな」


【言い方www】【“完璧な割り”ってなんだよw】

【ほんとクセになるわこの人】


じゅううう、と音が立ち、台所に香ばしい香りが広がる。

その間も、彼は真顔で語る。


「……音がいい。これは“鳴動式の祝福魔法”に似た響きだ」


【キャラ崩れないなあ】【実況がまじで異世界すぎて草】

【なんでこんなに見ちゃうんだ】


結月はその横で、画面を見ながら笑いをこらえていた。

コメント欄の盛り上がりが、妙に嬉しい。


「――目玉焼き、焼成完了。だが、これはあくまで前菜だ」


バルザークはくるりと振り返り、豚ロースのパックを掲げる。


「次なる儀式……魔獣、“豚”の調理に入るぞ!」


【メイン来たw】【キャラを貫いているのは尊敬するわ】

【豚を魔獣っていうなよw】


「……黙して見よ。我が全魔力をもって挑む料理だ」


バルザークは豚肉をまな板に乗せると、手のひらに魔力を集中させる。


「《焔ノ戒式・第一陣》――《フレア》!」


するとバルザークの手のひらに小さな火球がふわっと浮かび上がり、青白い魔炎が揺らめく。


【えっまじで火出た】【なに今の!?】

【演出じゃないの……?】【炎の色、かっこよすぎ】


「この“魔炎”、ただ熱いだけではない。肉の旨味を最大限に引き出す、“選別の火”だ」


バルザークはフライパンに油を敷き、小麦粉をつけた豚肉を乗せる。

そこに魔炎をかざすとジュウッ、と小気味いい音が鳴り響く。


「……この音、応えているな。我が意志に」


【なんか響きが名言っぽい】【実況がいちいち詩的】【火加減も魔法なの?万能すぎ】


「ここで“調味料をいれていくぞ ”――塩、胡椒……、“風の魔法セフィラ”!」


バルザークが空中に手をかざすと、小さな突風が舞い上がり、調味料がキラキラと舞いながらフライパンの上の肉にかかっていく。


バルザークは手元の小瓶を取り上げ、ラベルを一べつする。


「……そして、これが“人間界の熟成黒液”――《しょうゆ》と呼ばれる秘伝の調味霊薬だ」


【霊薬www】【名前の格が上がってるw】

【そんな神秘なもんじゃないからw】


 彼は瓶の口に手をかざし、低く呟いた。


「《旨味強化式・グラリオン》――」


 小瓶が淡く光を帯びる。


スマホを持つ結月の手が、微かに震えている。


(うわ……めっちゃ光ってる……!)


思わず、アップで撮ろうとカメラを寄せた。


「よし……魔変しょうゆ完成だ、いくぞ」


 それを、焼き上がる直前の肉へ――垂らす。


 ジュワァァァア……!


 魔炎が反応し、肉が一層照りを増し、香ばしい香りが空間を包む。


「……香りが変わったな。これが“魔変しょうゆ”の力である……」


【魔変醤油ほんとに来たw】【演出もリアクションも完璧かよ】

【俺の頭おかしくなりそうw】【もう料理番組というよりファンタジーの世界みたい】


「……完成だ」


バルザークは皿を手に取り、それらをテーブルに置き、静かに椅子に座る。

そして画面をまっすぐに見据え、宣言する。


「……この儀式の終わりにふさわしく、我が舌による審判としよう。

まずは――目玉焼きからだ!!」


 ナイフとフォークが、カチャリと音を立てる。


【見てるだけでどっと疲れたw】【はやく食え】

【実況付きでお願い】【バル様の実食回きた!】


 バルザークは慎重に、黄身を崩さぬよう白身の端をすくい、

とろりと流れ出した黄身を少しだけ絡めて、ゆっくりと口へと運んだ。


「いざ、いただく」


 一口――もぐ。


 咀嚼。


 沈黙。


 ――その目がゆっくりと見開かれる。


「…………ふむ。これは――」


 ナイフとフォークを置き、ゆっくりと口を開く。


「……柔らかな白身に、まだ熱を残した半熟の黄身が絡む。まさに、“光の精霊の抱擁”……」

「そしてこの濃厚さ、“黄金の核”と呼ぶにふさわしい」


【出たよ謎の例え】【でもクセになるやつ】

【こいつずっと何いってんだw】【なんか中毒性あるこの配信】


 フォークを置いて、静かにうなずいた。


「――目玉焼き、成功だ。次は……豚をいただこう」


バルザークはナイフで肉を一切れ切り取り、

切り口に浮かぶ肉汁と艶めく光をじっと見つめたのち、口へと運んだ。


「……我ながら、見事な出来だ。表面の香ばしさ、調味料たちの饗宴。そして魔炎による旨味の抽出……完全に、“支配”したな」


【料理を支配って言うなw】【でもなんか説得力あるのが悔しい】

【うまそうでしかない】【料理覇王名乗っていい】


「結月。見てないでお前も食べるがよい」


 差し出された皿を受け取りながら、結月は少しだけ顔をそらした。


 (……カメラには映らないようにしなきゃ)


 テーブルの端に寄り、一口――。


 「……なにこれ。アタシが作るより、全然美味しいんだけど。くやしいっ……!」


 思わず口に出してから、結月はむっと唇をとがらせた。


 【リアクションがリアルw】【カメラに映らないようにするのかわいい】

 【スタッフは普通の人でよかった】


バルザークはそのリアクションにうなずく。

そしてひと口、マグカップの水を飲み、画面を見つめる。


「“食の覇道”、その第一歩としては、上々であったな……」


画面の向こうから、惜しむ声が流れてくる。


【終わっちゃうの?】【もっと見たい】

【次回は何作るの!?】【週一でやってくれ】


バルザークは立ち上がり、真剣な表情のまま宣言する。


「――本日の儀式、“光の目玉焼き”および“魔炎ステーキ・豚ロースの香ばしき奏”の調理は、ここに完遂された」


「この覇道の旅は、まだ始まったばかり。……次なる戦場で、また会おう」

「さらばだ、人間界の同志たちよ――健やかなる胃袋に祝福を」


 バサァッ


【マント芸www】【胃袋に祝福ww食ったのお前だけだろw】

【いい配信だった。お疲れ】【また絶対来ます!】


結月が、クスクス笑いながらスマホを操作する。


「……はいはい、お疲れ様でしたー。配信、終了っと」


ピッ。






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