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第9話 本家よりも白熱する席の奪い合い

 べッサムは誰よりも早くボールを受け取った。十六番のボールだった。


「ボール、寄越せぇええええ!!」


 すると、ワラワラと群がるように大勢の野郎達がべッサムの元へ集まった。全方位から殺気を感じたべッサムはボールを口に咥えると、頑丈なグローブをはめた両手で対峙した。


「寄こぶっ!?」

「おらぐっがはああああああ!!」


 まず、飛びかかってきた薄ハゲの男とモヤシみたいに細い男を拳で吹き飛ばした。その威力は場外にまで及んだ。


 しかし、まだまだ野郎達はボールを手に入れようと攻めてきた。べッサムはグローブを駆使してリズミカルに殴った。野郎達は顎を砕かれたり吹き飛ばされたり、鼻を折られたり、天に昇ったりと散々な目にあった。背後から狙おうとする者もいたが、べッサムが一回転しただけで観客席まで吹っ飛んでいった。


 やがて、他の参加者達も『こいつと戦ったら危険だ』と感じたのだろう、別のボールの所持者の方へ向かった。


 ふとべッサムは『ボールの所持者以外をなぎ倒せばかなり早く予選が終わるのではないか』と考えた。そうすればスムーズに次のステージへと進むことができ、魔王城への近道を教えてもらい、妻救出へ向かうことができる。


(よし、やろう)


 べッサムはザッと周囲を見渡して、ボールを持っている者達を確認した。そして、持っていない者達を集中的に攻撃を開始した。


 ホウキで塵を掃くように野郎達が次々とべッサムの拳の犠牲になった。頑丈なグローブを付けているからか、威力は絶大でほとんどが担架で運ばれていった。


 ただ一人、顎が砕けても立っている大男がいた。


「へ、へへへ……お前の攻撃なんか効かね」

「早く倒れてくれないか。予選が終わらない」

「うへぶはぁっ!!」


 が、べッサムが右脇腹に一撃を与えると血反吐を吐いて気絶した。こうして、十六個の球を持つ精鋭達が残った。


 予想以上の早い決着に主催者側は驚いていた。特に呑気に食事休憩をしていた司会が慌ててカツサンドを口の中に放り込むと、彼らの元へ駆けていった。


「えーと、あの……早かったですね。で、では、残った十六人達で決勝戦に進出できる者を決めたいと思います!」


 司会は食べカスを飛ばすほどの高らかに宣言すると、残りのサンドを食べに奥に消えていった。



 トーナメントはファースト、セカンド、サード、セミファイナル、ファイナルステージの五回行われる。『鉄仮面ロガ』と『青マスクアグリー』はセミファイナルで互いに戦い、どちらか一方が決勝戦へと上がる。べッサム達は最終的に一人勝ち続けた者が決勝へ上がれるのだ。なお、生死は問わない。


 トーナメントが開始されても観客は閑散としていた。が、地下室の方では殺気と闘気で充満されていた。特にべッサムに注目が入っていた。予選に注目が参加した猛者達を猛獣の如く蹴散らしている様を見て、彼が一番脅威であると感じていたからだ。


 だが、べッサムは対戦相手よりもトーナメントがいつ終わるかを危惧していた。


(だらだらしていたら、チャラミーの救出が遅れてしまう。俺の番になったら最短で勝負しよう)


 べッサムはそう考え、拳を握った。



 べッサムは無言実行だった。自分の番が来れば、一撃で決着をつけた。拳に全神経を集めて目にも止まらぬ速さで相手を仕留めた。


 不運にも彼と戦うことになってしまった猛者は自分の名前を語る前に顔面を複雑骨折するはめになってしまった。


 ちなみにファーストステージはスライムボディの坊主魔術師、セカンドステージは腕が八本もある剣士、サードステージは巨大なドラゴンを従えている独身貴族だった。どれも手強そうな雰囲気を醸し出していたが、残念ながらべッサムの拳の犠牲になった。


 セミファイナルになると、少しずつ客が入ってきた。ロガとアグリーのファンが遅れないようにべッサムの対戦の時に席を確保しにやって来た。


 この時、運営側は重大なミスを犯していた。チケットを提示すれば再入場が可能なシステムを導入したのは画期的だった。が、肝心のチケットに座る席の位置が記載されていないのだ。つまり、一番良い席は先着順となってしまったのだ。


 それにより、鉄仮面と青マスクのファンの間で熾烈な席の奪い合いが起こっていた。


「ちょっと! 私の席よ! どきなさい!」

「嫌よ! 席を離れたあなたが悪いのよ!」

「それはお互い様でしょ! 寄越しなさい!」

「嫌っていっているでしょうが!」

「このクソビッチ……ぶっ殺してでも奪ってやるわ!」


 トーナメントにも負けないぐらい白熱したバトルが繰り広げる中、べッサムのセミファイナルは始まった。相手は物静かな男で神経を集中しているのか、目を閉じていた。ちなみに彼の力は神経を最大限に研ぎ澄ませ、相手の動きを読み取る能力者だった。


 予選や全三回戦の間はその力を使って攻撃をかわし、一方的に相手を倒していった。べッサムと同じ無傷で勝ち上がってきた男は彼の次なる一手を読み取ろうとした。


 が、今回は環境があまりにも悪すぎた。


「では、これより、セミファイナル、べッサム対……」

「席よこせぇ!! ガルルルル!!」

「このっ! このっ! 死ねっ!」

「いやあああああ!! あつぅうううう!!」

「さぁ、我が従順な召喚獣達! あの娘の席を狙いなさい!」

「はぁはぁ……私はっ! 絶対にっ! この席を……動かないっ!!」


 全方位からあらゆる罵声や怒声や騒々しい音が対戦相手の聴覚に襲いかかった。


「ああああああ!! くそうるせぇじゅへっ?!」


 あまりの騒々しさに物静かな男の神経が乱れた事で、べッサムの攻撃を許してしまい、彼は即死した。


 こうして、べッサムは拳一つで決勝戦まで上がる事ができた。

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