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第7話 いざ、闘技場へ

 ベッサムはギルドを探す事にした。当然カーテングルグル巻きという異様な格好の彼に城の近くに住む人達は困惑していた。


「おい、なんだあいつ……なんか身体にカーテン巻いてないか?」

「確かにあれはカーテンだ」

「なんでカーテン?」

「あっ、あいつ! 見たことあるぞ! さっき検問所で兵士に止められていた奴だ!」

「あぁっ! 確か股間に葉っぱ一枚だけ付けていた変態! でも、なんで検問所を突破しているんだ?」

「そういえば貴族の馬車に乗っていたぞ」

「あの人か……きっとヤルことヤッてたんまり報酬貰ったんだろうなぁ……羨ましぃ!」

「でも、早くないか?」

「ソーローなんだろ」


 なんて囁き声はベッサムには耳に入らなかった。彼の神経はギルドだけで、周りの視線など気にはしなかった。本当に殺気以外は疎いのである。


 ベッサムはギルドの看板を見つけた。外観はレンガで出来ていて、カウンターと客席がスムーズに行きやすくするために作られた宙ぶらりんの扉が設置されていた。


 中から野郎達の低音ボイスが響き渡る中、ベッサムは奥せずに入っていった。カランカランと鐘の音色が鳴った。中は想像以上に広く薄暗かった。天井にはプロペラみたいなのがクルクル回って汗や酒臭い空気を潤滑に送っていた。


 中の明るさを確保するために、壁には多めに照明が取り付けられ、天井の隅には日差しを送るための窓も設けられていた。


 奥にはカウンターがあって、等間隔に敷居が立てられていた。そこには可愛らしい制服を着た女性達が冒険者達を応対していた。


 が、今は時が止まったかのように固まっていった。ギルド嬢も全身革で作った装備の冒険者達も皆視線はベッサムに向けられていた。


 誰も関わろうとしなかった。自分よりも頭一つ多いほど体格のある男と下手に絡んだら何をされるか分からないと日頃魔物相手に戦っている経験により身についた勘がそう警鐘を鳴らしていたからだ。


 ベッサムは真っ直ぐ受付へと向かった。その道中、外で歩いた時と同様にカーテンを巻いた格好をしている事やマダムに拾われた事を話していた。


 当然耳に入っていないベッサムはギルド嬢の前に立った。不運なことに今日入社したばかりのうぶな赤髪の女性にあたってしまった。


「すまないが、魔王の所へはどうしたら行ける? 近道はあるか?」

「ま、魔王? まお、魔王ですか? えっと、その、あの、えぇと……」


 新米ギルド嬢は隣にいる先輩に助けて欲しいと目線でSOSを出した。白髪のギルド嬢は後輩の好感度を上げるため、ベッサムの前に立ちはだかるように交代した。


「ご用件は何でしょうか?」

「魔王への行き方を教えて欲しい。できれば、最短で」

「あいにくですが、魔王の討伐のクエストはございません。お引き取りを」

「いや、クエストを受けるつもりはないんだ。ただ場所だけ教えてほしい」

「当ギルドに所属している方以外はこちらで管理している情報をお渡しすることはできません。お引き取りを」

「では、ギルドに所属したら教えてくれるのか?」

「失礼ですが、身分を証明できる物はお持ちですか? ギルドに入会するためには我が国で発行されている個人情報が記載されたカードがないと手続きできません」

「……ない」

「では、お引き取りを」


 白髪のギルド嬢はバンッと叩きつけるように『休憩中』の札を置いて新米ギルド嬢を連れて裏に入った。


 ベッサムは周囲を見渡して、「この中に魔王の居場所を知っている者はいないか」と尋ねたが、無視されてしまった。


「ちょっと、あなた!」


 すると、小太りのおじさんがやってきてベッサムの前に立ちはだかった。胸元の名札には『ギルド長』と書かれていた。


「なんだ?」

「そんな格好でギルド内をウロウロされると困るんですよ。ほら、早く出ていってください!」


 ギルド長に押されるようにベッサムは入り口へと強制的に向かった。ようやく彼は自分が着ている格好のせいで邪険に扱われている事を知った。


「不愉快な思いをさせてすまなかった。ちゃんとした格好をしてから出直すよ」

「いいえ、あなたは一生出禁です!」


 ギルド長はそう叫んでベッサムを外に追いやった。この瞬間、ギルド内に歓声が沸き起こっていた。



 はねつけるようにギルドを追い出されたベッサムはこの国の兵士に魔王の居場所を聞こうと思い、城がある方角へと向かった。


「おい、兄ちゃん」


 すると、背後から声を掛けられた。振り返ると、ヒョロ長で顔に(あざ)のある男がニヤニヤしながら近づいてきた。


「お前さん、魔王の居場所を知りたいそうだな」

「あぁ、そうだ。知っているのか?」

「知っているも何も……魔王の居場所は金貨に相当する究極の情報だからさ」

「何だと?」


 ベッサムは目を丸くした。それほど価値のあるものだとは知らなかったからだ。


「では、いくら払えば教えてくれる?」


 ベッサムは巻いた時にできたカーテンの隙間から金貨の入った袋を取り出した。痣の男はそれを見て口角を上げた。


「そうさね……教えてあげたい所だが、その願いを叶えたいのなら大会で優勝するしかないな」

「大会?」


 首を傾げるベッサム。痣の男はポケットからクシャクシャに丸められた紙を取り出して広げると、彼に見せた。


「……『クラッシャー王国公式バトルロイヤル』? なんだ、これは」

「この国にある闘技場で行われる大会で勝てば莫大な賞金と望みが得られるんだぜぇ」

「賞金は分かるが望みってなんだ?」

「国に関わる以外だったらどんな願いでも叶えられるのさ!」

「魔王の居場所とかもか?」

「あぁ、もちろんだ」

「じゃあ、闘技場へ案内してくれ」


 べッサムがそう頼むと、痣の男は「だが、その前にお前さんのオシャレな格好から戦いやすいのに変えないとな」と言って彼のカーテンのキトンをマジマジと見た。



 カーテンは素材が良かったので質屋に売った。痣の男はそれで得た銀貨数枚をべッサムのお小遣いとして渡した。代わりに金貨の入った小袋を男に渡してそのお金で装備や武器の調達を頼んだ。


 その結果、装備は革の鎧とズボン、靴という最低限のものだったが、武器に関しては重厚感あるグローブになった。武器屋の主人曰く、ダイヤモンドよりも硬い鉱石で作られているらしい。


 たちまち気に入ったべッサムは残りの金貨を全て痣の男に渡した。男は棚からぼた餅だと喜んで侘しい懐にしまった。



 無事にそこそこまともな格好になったべッサムは痣の男の案内で闘技場に向かった。闘技場は巨大な王冠のような形になっていた。


 男は「すげぇだろ。上から見るとな。円の縁側に観客席、中央がステージになっているんだ」とまるで所有者みたいな話し方をした。


 少し想像すれば把握できるので、べッサムは「そうか」とだけ短く返した。


 闘技場が近づくに連れて、行列が出来ていた。一つは参加者、もう一つは客席へと続いていた。意外にも女性の観覧者が多かった。どの女性も特徴的な格好をしていた。一人は目元に青い布のマスクを付けていた。もう一人は兜みたいに完全に頭をすっぽり覆っていた。


「あれはなんだ?」


 べッサムが彼女達の方を指差すと、痣の男は「あぁ、あれは『鉄仮面ロガ』と『青マスクアグリー』のファンだよ」と答えた。


「誰だ。そいつらは」

「この国で一番有名な格闘家だ。ほら、あそこの看板を見てみろ」


 痣の男が指差す方には巨大な看板が建てられていた。そこには長方形の看板に二人の人物が向き合う形で描かれていた。


 一人は目元に青い布のマスクを付けた青髪の青年、もう一人は魔物に模した兜を装着している人物だった。


 その看板の前にも行列が出来ていて、画家が巧みに記念画を描いていた。


「今日はこの二大スターが参加するから世界中の人達が訪れてるんだ」

「そうか」


 べッサムは彼らの事よりも優勝して魔王への近道を知りたい事しか頭になかったので、男の話をほとんど垂れ流していた。

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