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第3話 一番良い武器を頼む

 ベッサムが出口に向かおうとしていると、フェイリーラに呼び止められた。


「どうしたんだ」

「あの……魔王を倒しに行くんですよね」

「そうだ」

「では、これを」


 フェイリーラは小さな布袋を渡した。広げてみると、金貨がたくさん入っていた。思わぬ贈り物にさすがのベッサムも戸惑っていた。


「こんなの受け取れない」

「ご心配なく。魔王討伐の軍資金として国王様に請求するので」


 フェイリーラは軽くウインクした後、「気をつけて」と引き締まった表情に変えた。


「恩に着る」


 ベッサムは小袋をポケットにしまうと再び歩き出した。


「あ、団長」


 すると、フェイリーラは何かを思い出したように声をかけた。ベッサムは「なんだ」と言って振り返った。


「できれば、死体だけは増やさないでくださいね。あの、その……後始末が大変ですから」

「悪いが、それは無理な相談だ」


 ベッサムは元部下の頼みを瞬時に拒否すると、大股で向かって行った。


「……はぁ」


 フェイリーラはこれから起こる惨劇を想像して頭を抱えた。



 城を出たベッサムは武器を買いに向かった。この王国で一番品質の良い武器を提供してくれる武器屋は城の近くの一軒家にあった。一見、何の変哲もないレンガ造りの家だが、彼が柵に足を踏み入れた途端、ポストからボウガンの矢が飛んで来た。


 ベッサムは無表情で片手で受け止めると、どこからか『騎士団を抜けても腕は落ちておらんようじゃな。ベッサム』としゃがれた声が聞こえてきた。


「すまないが、急用なんだ。試験はまた今度にしてくれ」

『ヒョヒョヒョ、心配ない。もう合格じゃ……入れ』


 しゃがれた声が許可した途端、ドアが勝手に開いた。ベッサムは大股で家の中に入ると、ドアが勝手に閉じられた。


 そこには至る所に武器が展示されていた。壁にはあらゆるサイズの剣やナイフが飾られ、ショーケースには大型から小型のボウガンが美術品みたいに並んでいた。他にも弓や鞭など武器と呼べるものが全て揃っていた。


 カウンターの前には老人が立っていた。しかし、ベッサムに負けず劣らずの筋肉を持っていた。麻の服がはちきれそうなほどの大胸筋を持つ白髪の老人の名はラージャ。前々王国騎士団の団長だ。


「お前がここに来るということは余程の急用ができたということじゃな」

「あぁ、そうだ」


 ベッサムはポケットの中から小袋を取り出してカウンターに置いた。ラージャは紐を緩ませると中には金貨が大量に入っていた。一枚取り出してかじり、歯が少し欠けたのを確認した前々団長は「売ってやろう」と懐にしまった。


「で、何が欲しい」

「この店の中で一番斬れ味の良い双剣を頼む」

「分かった」


 ラージャはそう言って壁に立てかけてある長いハシゴを取り出すと、カウンターを出て少し歩いた壁に立てかけた。猿のように軽々戸上まで駆け上がると、何本もある剣の中から双子の剣を取った。


 滑り落るようにハシゴから降りたラージャはベッサムに渡した。


「これがそうか?」

「あぁ、かつて竜の首を落としたとされるものじゃ」


 ベッサムは刃こぼれなどがないか念入りに確認すると、「もらうぞ」と言って外に出ようとした。


「待て、待てっ! 剥き出しのままだと持ち運ぶのに不便じゃろ。鞘を持っていきなさい」


 ラージャは慌ててベッサムに双剣用の鞘と紐を渡すと、彼は手早く剣を鞘に収めて紐をクロスさせて背負った。


「ありがとう」

「良いってことよ。あ、ちなみにどこに行くつもりなんじゃ?」

「魔王の所だ」

「魔王じゃと?」


 ベッサムは麻魔王に行く経緯を話すと、ラージャは「そっか。頑張れよ」と肩を叩いた。


 その時、凄まじい爆発音と悲鳴が響きわたった。


「魔物だーー!!」


 誰かの叫びにベッサムは「それじゃあな。奴らに魔王の居場所を聞いてくる」とドアを突き破って駆けて行った。


 ラージャは頭の中でベッサムから貰った金貨と扉の修理費を引いた金額を計算すると、娼館に行く支度を始めた。



 突如魔王軍の侵攻が始まり、王都はパニックに陥った。そのせいで騎士団はまだ全ては揃ってはおらず、ギルドに所属するパーティーや城門付近で見張りなどをしていた騎士達が魔物の侵攻を食い止めていた。


 が、悲惨な状況だった。家屋は破壊され、人が倒れた。まるで行進でもするかのように武装したオークやゴブリンなどの魔物達が国内に侵攻していった。


 魔物達の中央に出車(だし)みたいに高い塔に王の如く座っているオークがいた。魔王軍最高司令官ゴーグだ。


 ゴーグは肘掛けに頬杖をつきながら下々で繰り広げられるショーを愉しんでいた。オークが騎士の剣を受け止めて蹴飛ばしたり、スライムが男の足を拘束してその隙をワイバーンが(ついば)んでいた。


(こんな奴らのために俺が呼ばれるなんて……魔王様は何を考えているのだ)


 ゴーグはこの国に最終兵器(ベッサム)がいる事を知らずにこの国の戦闘力を鼻で笑っていた。彼は甘い妄想をしながら城を目指した。


(噂によればメロー王妃がとてもつもない魅惑的な女性だと言う。見つけたら絶対に俺のものにしてやろう)


 ゴーグが新しい嫁を決めた――その時だった。彼が見つめる先に異様なことが起きた。前線で攻撃している魔物達が突然細切れになってしまったのだ。

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