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第15話 一方、魔王城では……

 北の川を越えた先にある魔王城。そこではクラッシャー王国を偵察していたガーゴイルが魔王に報告していた。


 白髪のショートヘアに紫の瞳が特徴の人型の男ーー彼が魔王ルギアだ。


 ルギアは玉座に腰を掛けて部下の報告を最後まで聞いていた。その側には常識では考えられないような巨大なバストを持つサキュバスが蔑むようにガーゴイルを見ていた。


「……それは本当か」


 ルギアの口調は極寒より冷たかった。こういう状態は彼が心の中で怒っている証拠だったので、ガーゴイルの震えが止まらなかった。


「は、はいっ! 幹部二体がべッサムに消され、そのうちの一体は頭部を鷲掴まれて無理やり我が城へと案内させられています」

「なんてこった。魔王軍の最高司令官も撃破され、幹部三体かかっても相手にならないとは……こんな人間、初めてだ」

「魔王様、いかがいたしましょう?」


 ルギアは頭を掻きながら唸った。


「幸い幹部はまだ十体もいる。そいつらに任せれば問題ないだろう」

「しかし、魔王様……」

「あなた、魔王様の判断が間違っていると言いたいの?」


 最胸(さいきょう)サキュバスがナイフで切るような言い方でガーゴイルの発言を制した。ガーゴイルは彼女の方を見ようとしたが、パツパツの水着という卑猥な格好をしていたという事を思い出したため、すぐに下を向いた。


「……お前」


 ルギアの背後が禍々しいオーラを纏いだした。ただならぬ殺気を感じたガーゴイルは「いえ、決して異を唱えようとは思っておりませぬ!」と深々と頭を下げた。


「いや、俺が怒っているのはそっちではない」

「……と申しますと?」


 ルギアはいきなり玉座から立ったかと思いきや、ガーゴイルに急接近した。


「俺の妻の身体を見て欲情しただろぉおおおおお!!」


 ルギアの片手から漆黒のビームが放たれ、ガーゴイルに直撃した。


「それは不可抗力ぅぅぅぅぅぅ……」


 ガーゴイルは弁明をはかろうとしたが、その前に消されてしまった。


「まったく俺の妻に色目を使うとはいい度胸だな」

「全くです。あなた」


 最胸サキュバスはしなやかにルギアの側によると、自慢の巨肉を押し付けた。が、魔王の顔色は一つも変わらなかった。


「よし、今から幹部達と会議を開いてくる!」


 魔王の突然の判断にサキュバスは困惑した。


「明日でもいいじゃない。ね、今夜はお互い予定が空いているし、夜伽(よとぎ)には絶好の機会だと思わない?」


 最胸サキュバスはべッサムの脅威よりも愛する夫と一夜を共にする事が最優先だった。彼女の夢は彼の跡取りを産んで、幸せな家庭を築くことだった。


「そんなことをしている暇はない! このままだと俺の愛人が奪われるだろうがっ!!」


 しかし、愛人ーーチャラミーを気に入っていた魔王にとっては彼女の旦那が奪い返しに来るのを何としてでも防ぎたかった。彼の応えに最胸サキュバスは「……そんなにあの人間の女が大切なの?」と小声で呟いた。


 魔王は聞こえなかったようで、そそくさと謁見の間から出て行ってしまった。


「……はぁ」


 最胸サキュバスは深く溜め息をついた。


「俺が魔王だったらお前を悲しませたりはしない」


 すると、柱の影から体長二メートルはありそうな体格のいいオークが現れた。幹部の一人であるガーチャだ。


「何の用? もし二人きりで会っているのを魔王が見たら殺されるわよ」

「その前に逃げるさ。お前と共にな……」


 ガーチャはそう言って最胸サキュバスの肩に手を置いた。


「お前、子供が欲しいんだろ? いつまでも相手にしないアイツなんかより俺の方がすぐに夢が叶うぞ。なんせ俺はサキュバス達から『絶倫王』と呼ばれているからな」


 ガーチャの距離は近くなる。最胸サキュバスは「私と一戦交えたいということね? 危険をおかして」と彼の顔を見た。


「あぁ、危険をおかしてでも、お前をものにしたい」


 ガーチャの熱意に最胸サキュバスは「こっっちよ」と寝室へと案内した。


 ガーチャの体内はマグマの如く煮えたぎっていた。彼の生涯の目標だった魔王の妻を寝取ることができてパンツから涙が溢れた。


 しかし、その夢は五秒で終わる。交わった瞬間、スポンジの如く彼の精力は奪われていき、干からびて死んでしまった。


「やっぱ、あの人じゃないと……」


 ミイラと化したガーチャを窓から投げ捨てた最胸サキュバスはベッドの上で嘆いた。


 彼女の異常な精の吸引力に耐えられるのは、魔王だけなのである。



 魔王ルギアが大扉を開けると、幹部達が勢揃いしていた。しかし、突然の招集に焦って寝間着のまま着ている幹部もいた。中には一緒の部屋で寝ていたであろう男女の幹部達もいた。


「あれ? ガーチャは?」


 魔王は彼らの服装の乱れよりも一体欠けていることが気になった。


「彼でしたらこんな状態でミイラになっていましたよ」


 一つ目の巨人がそう言って円卓の上に干からびたオークを出した。これに「まさかもうあの人間の魔の手が?!」と怯えていた。


 ルギアは彼の死体から甘い香りがした事からすぐに彼が最胸サキュバスと寝たと直感すると、「この浮気者がっ!!」と憤慨して消し炭にしてしまった。


 目の前で仲間が燃えていくのを幹部達は黙って見守る事しか出来なかった。


「何をしている?! さっさとあの男を殺しに行ってこぉおおおおおおい!!」


 寝取られるのが何より嫌いな魔王は怒りのあまり、テーブルを叩き壊した。恐れをなした幹部達は逃げるように円卓の間から出て行ってしまった。


「はぁはぁ、あの女ぁ……二度と浮気しないように分からせてやる」


 魔王はそう言って最胸サキュバスの元へと向かった。


 その夜、魔王城中に最胸サキュバスのあえぐ声が響き渡り、大勢の魔物達が発情期状態になってしまったという。

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