第14話 人類史上初めて肉眼で光を直視できる男
ピエロとアグリーが良からぬ企みを計っているとはつゆ知らず、べッサムは北の川へと目指した。
国中ではサキュバスが飛び交っていて大混乱に陥っていた。
「なんだ、こいつら?!」
「うぉおおおお!! 抜き取られるぅ!!」
「いや、止めて! それはうちの旦那よ!」
あちこちから悲鳴が上がっているのを聞いたべッサムは見過ごす訳にはいかず、大きく息を吸った。
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
その咆哮は上空にいるサキュバス達を失神させるには十分だった。それだけではなく、地上にいる生物までもが気絶した。国民も含めてだが。
べッサムは光の如き速さでサキュバスだけを回収してグルグル巻きにさせた。彼女達は白目を剥いていたが、死んでいる訳ではなかった。
彼は急いで薬屋に行き、手当たり次第に薬草を取った。もちろん代金も支払った。
そして、奥にある作業場に向かうと、薬草をすり潰して鍋に入れて煮込んだ。コトコトと液状化させたら、布でこして、余計なものを取り除いた。
五分で完成した真緑の液体をフラスコに入れると、サキュバスの所に向かった。灼熱の熱さであるにも関わらず口の中に入れて霧吹きで液体を彼女達に振りかけた。
すると、サキュバスだった貴婦人達はみるみるうちに元の人間に戻っていた。実はべッサムは過去にチャラミーがサキュバスになってしまった時があり、その時に血眼になって調べ上げた経験が今活かされた。ちなみにチャラミーは無事に元通りになった。
さて、貴婦人達を元に戻したべッサムは再び川へと目指した。
※
北の川の近く。大きな木の側でアグリーとピエロは側に立っていた。
「よし、作戦通りに行くぞ」
「あぁ、出会ったらすぐにマジの力でフルパワーを出すんだな」
「あぁ、そうだ。あいつはロガを一撃で倒した。再生能力を持っているアイツが唯一の弱点である頭部を瞬時に見抜いて倒したんだぞ」
「アイツは普通じゃない。今まで相手してきた格闘家とは訳が違う」
「あぁ、だが、二人掛かりで挑めばいくら馬鹿デカの奴でも負けるだろ」
そんな会話をしているうちにべッサムがやってきた。ピエロとアグリーは作戦通り彼の前に立ちはだかった。
「ガハハハハハハハっ!! ここから先は通さんぶぼぞっ?!」
ピエロが高らかに叫んだと同時にべッサムの右ストレートが彼の腹部を貫いた。ピエロはどうにかして自我を保って生命を維持させようとしたが、引き抜いて連続で拳を振るった事によりピエロは絶命した。
「あ、あ、くそぉおおおおお!!」
一人残されたアグリーはすぐさま究極体に変身した。太陽のように眩しくさせ、天高くまで上昇した。周囲は夜のはずなのに昼間のように明るくなった。
「ハハハハハっ!! いくらお前でも眩しさには勝てまいっ! いくぞっ!! 破滅光線らっしゅぅうううううううう!!」
もはや孤独の戦士と化したアグリーは何がなんでも勝利したかった。ようやく手に入れた幸せを何としてでも死守したかった。
数多の光線がべッサムに一直線に降り注いだ。あらゆる生物が光線の中に消えていく中、べッサムは真っすぐ標的に向かって飛翔した。
彼は恐らく人類史上初めて肉眼で光を直視しても平気な男だった。なので、サングラスを付けなくてもべッサムはアグリーの姿がよく見えた。
「なっ、なんだと?! こいつ、なんで眩しくならないんだ?!」
狼狽するアグリーだったが、冷静に彼の心臓目掛けて光線を放った。べッサムは目にも止まらぬ速さで避け、遂に数十センチまでに迫った。
「うぉぉおおおっ!! 死ねよぉうぁあああああ!!」
アグリーはここぞとばかりに大波並の光線をべッサムに放った。彼の光は空を覆い、まるでオーロラの如く輝いていた。
が、べッサムは既にアグリーの背後にまわって手刀で斬首した。彼のまとっていた光は消え、肉体は線香花火のように朽ちて地面に落ちていった。
べッサムはアグリーの首を持ったまま地上へと帰還した。
「は、離せっ! クソ野郎がっ!!」
「お前、頭部だけでも生きていけるのか。なら、都合がいい。魔王城まで案内してもらおうか」
「誰が……あぎぎぎぐぐっ!!」
アグリーは拒絶しようとしたが、べッサムが強めに握るとたちまち大人しくなり、素直に案内に応じた。