第13話 寝言は寝てから言え!→じゃあ、お前が眠れ
魔物である彼らがなぜ人間に扮してクラッシャー王国に潜入していたのかーー彼らの宴の会話から察して欲しい。
「いやー、こんな幸せ初めてだぜ!」
「人間の頃も悪くなかったが、やはりこの姿じゃないとしっくりこねぇな!」
「本当にお前らはよくやった! では……乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯っ!!」
「ヒャハハハハ!! いやー、無事に領土を手に入れてよかったな!」
「ガハハハハハハハ、そうだな、ロガ」
「ぐふふふふふ、魔王様から直々にクラッシャー王国の領土をぶんどって欲しいと言われた時は戸惑ったよ」
「あぁ、アグリー。なんせこの国は強者揃いの格闘家が揃っていた。一筋縄ではいかない」
「だから、バトルロワイヤルを開催させ、少しずつ減らしていった! でも、幹部である俺達の敵では無かったがな」
「そして、俺たちはスターに!」
「国中に猛者がいなくなったら、世界中から取り寄せて消していった」
「今日、お前達を激突させ、感動的な戦いにさせたのは見事だったよ。そのおかげで、何の不審感を抱く事なく奴らは……俺達の餌となった! 世界中が大混乱に陥るだろうな」
「それだけじゃない! 世界有数王族や貴族の女をサキュバスにしてやったぜ!」
「あぁ、これで俺達は魔王様と同じように所帯持ちになれる訳だ」
「いや、まだ早い。正確には婚姻の手続きをする前だ。もし先にやってみろ。今までの苦労が水の泡だ」
「じゃあ、しばらくはお楽しみの関係でいっっか」
「あぁ、どの子も美味しそうだぞ」
「ぐふふふふふ」
「ガハハハハハハハ」
「ヒャハハハハ」
つまり、彼らは魔王の命で国を乗っ取っていたのだ。そんな未曾有の危機にまだ大広間の外にいる召使いや城外の国民達は気づいていなかった。
幹部クラスの魔物三体は洗脳してサキュバスにさせた貴婦人達と戯れながら今後の計画を練っていた。
すると、突然壁の一部が吹き飛んだ。
「なんだ?!」
「まさか敵襲か?!」
「そんなはずはない! 誰も俺達の事を疑っていないはずだ!」
魔物達三体は不安そうに砂埃に映るシルエットを見ていた。洗脳された貴婦人達も彼らの背後に身を隠していた。
現れたのはべッサムだった。片手には靴を持っていた。
「……ん? ここは……城か?」
べッサムは靴飛ばしで進んでいるうちに城に迷い込んでしまったのだ。べッサムは大広間の絢爛さで城の内部だと直感した。そして、中央でポカンとしている魔物達を発見した。
「……何をしているんだ。こんな所で」
「それはこっちのセリフだ! お前は誰なんだ?!」
「俺か?……べッサムだ」
「べッサム? べッサム……あ」
ピエロの司会に扮していた魔物は彼の名前を聞いて、決勝戦に進出するはずだった男の名前を思い出した。
「親父、知ってるのか?」
「確かお前と決勝戦で戦う予定だった相手だ」
「なんだと?」
ロガはべッサムの方を見た。どうやら彼も本当に存在を忘れていたらしい。
べッサムは彼らの会話から鉄仮面ロガの正体が魔物であると直感した。そして、残りの二体も王国内の誰かに化けていたと考えた。
「なるほど……お前らの目的は国を乗っ取る事か」
「ギクッ!」
「うっ……」
出会ってから数分も経っていないのに見抜かれた事にロガとピエロは狼狽していた。しかし、アグリーは冷静だった。
「それは突拍子もないデタラメじゃないか。証拠はどこにある?」
「悪いが、お前らとお喋りしている暇はない。さっさと魔王城への生き方を教えてくれ」
「は?」
アグリーは自分の質問とかけ離れた回答が出た事に脳の整理が追いつかなかった。ピエロが助け舟を出した。
「お前、魔王城へ行って何をするつもりなんだ」
「魔王を殺して妻を助ける」
べッサムが真面目な顔で答えると、三体は天井にぶら下がっているシャンデリアが揺れるほど笑った。
ロガが苦しそうに腹を抱えた。
「ま、魔王様を……ぷふふふ、殺すだと? 寝言は寝てから言え!」
「じゃあ、永遠に眠れ」
べッサムはいつの間にかロガの目の前に来ていた。ロガは避ける暇もなくべッサムの足で頭部を踏み潰されていた。まるで落ちたトマトが弾けるようにロガの頭部もグチョグチョになってしまった。
「なに?!」
「ロガっ!!」
ロガの当然の死に二人は困惑した。べッサムは次の攻撃を仕掛けようとしたが、二人とも奥まで飛んで行ってしまった。
「お、おいっ! メスサキュバスども! あいつを殺せっ!!」
ピエロがそう命じると、貴婦人のサキュバス達が一斉に襲い掛かった。すると、べッサムは禍々しいオーラを周囲に放った。これに身の危険を感じた彼女達は窓を突き破って自分たちの故郷に羽ばたいて行った。
「あっ! お前ら、旦那を置いて逃げるのか! くそっ!」
ピエロは逃げてしまったサキュバス達に中指を立てた。アグリーはべッサムの動きに注意をはらっていた。
「ほら、鉄仮面を倒したぞ。これで優勝は俺。確か勝てたらどんな願いでも叶えてくれるんだっけ?」
べッサムはピエロの方に視線を送った。彼の瞳には殺意が隠しきれなかった。ピエロは冷や汗をかきながらもどうこの窮地を突破しようかと考えた。
「な、何が望みだ。金か? 女か? それとも領土か?」
「さっき言っただろ。魔王城への近道を教えてほしい」
「は? 本当に魔王を倒すつもりなのか?」
「あぁ、本気だ」
「お前正気か……」
「魔王城へは北の川を上れば近い」
ピエロがべッサムを煽ろうとする直前にアグリーが近道を教えた。べッサムは「確かか?」と詰め寄った。
「あ、あぁ、行った方が早い」
「そうか……分かった」
べッサムはそう言って突き破った壁の穴へ戻って走り出した。
「おい、なんで教えたんだ? もし魔王様に知られたら殺されるんだぞ!」
ピエロが慌てたが、アグリーは「問題はないよ」と口角を上げた。
「なぜだ?」
「その前に俺達が消すからさ」
「あぁ、なるほどね」
ピエロはアグリーの狙いが分かり、不敵な笑みを浮かべた。