疲労破壊を知っていますか?
地震対策は、理論より経験や失敗から学ぶことが多い特別なジャンルです。専門的見地から思う事を綴ってみます。
今年は、元旦に能登半島地震がありました。そして、松山、福島、台湾、宮崎、高知愛媛と立て続けに大きい地震が起こっています。震源の深さが同じ39キロ、4月8日に起きた宮崎地震と4月17日に起きた高知愛媛西南部地震は、震源深さや震源が似ており同一地震群と考えるのが無難です。ちなみに、南海トラフ地震とは全く関係がない地震だと気象庁よりアナウンスがありました。
元旦に起きた能登半島地震では、最大震度7でした。震度7なら、倒壊や半倒壊は珍しい事ではありません。しかし、震度6で輪島市のマンションが倒壊し、その建物の写真はマスメディアによく用いられました。知らない人々は、手抜き工事ではないかとSNSで情報発信もしていました。
能登半島地震で連絡がつかない人々や分断された地域が多かったのは、半島上の性質を考えれば仕方ありません。また、水道管の破裂が多かった要因に耐震化が進んでいなかった事も原因ですが、4m近く隆起した場所ではいくら耐震化しても一部に破損は見られたでしょう。無理な事と出来る(対応できる)事をちゃんとマスメディアは理解し整理し、報じるべきに思います。出来ない事を要求しても意味がないどころかはっきり言って行政の邪魔、ミスリードの世論を創り出しています。
新潟地震等、この2年で能登半島は、震度6以上の地震を二度経験したと言われます。震度4程度でしたら、目に見えない疲労や亀裂等はないでしょう。震度5になると微妙、震度6になると多かれ少なかれダメージを受けている可能性が高いです。実際、能登半島地震が起こる前に診断を受けて補修待ちだった一戸建ては多かったそうです。これは、地震国日本が抱える新たな問題と言えるでしょう。地震は、一箇所に大量の待ち現象を生み出します。それは、避難待ち、救援物資待ち、仮設住宅待ち等、耐震補強や住宅修理同様の待ちを生み出します。これこそが、震度7クラスの地震の本質です。
一般の方は、強い揺れで木材や鉄筋が折れるというのはすぐに理解できるでしょう。しかし、靭性や耐性はすぐに理解できないと思います。靭性とは粘り強さ、耐性とは耐久性を指します。一般人が理解しやすい強度とは全く違う指標尺度です。車だとボディ剛性の中にねじれ剛性、曲げ剛性、局部剛性があるのと同じです。疲労による破壊は疲労破壊と言われ、段々と耐性がなくなっていく現象を指します。人間だとストレスでどんどんやられていき、体調不良になったり精神を病むのと同じです。震度6以上を経験すると、何かしら構造物の部材にストレスが溜まり、耐性が減少します。そして、本来の耐久性がないため、壊れやすくなっているのです。余談なので靭性について説明すると、ポキッと折れるのではなく、ゆっくりと壊れていく感じです。大豆だと糸を引きませんが、納豆だと糸を引きながらゆっくりと落ちていきます。そういう違いと言えば、イメージしてもらいやすいでしょうか。
地震が多い日本では、建築基準法を変えて新耐震基準(1981年、2000年改正)を設けました。1978年宮城県沖地震、1995年阪神大震災が、きっかけと言われています。これらは、凄く有効に機能しているでしょう。しかし、疲労破壊に対する義務化ではなく努力義務化(罰則なし)を現実的に行うべきです。以前建てた構造物はそのままでOK同様、義務化は現実的でありません。お金のある人は震度6以上の地震被害を受けたら、診断や補修を行うのが望ましいのは言うまでもありません。本当にやるべき対策や広報を行わず、意味のない事や無理な事の議論や宣伝(広報)が非常に多いように思えてなりません。