ヒロインを選ばなかった攻略対象 王子の場合 後編
廊下で言い争う婚約者のレオナルダとイリーナ。
二人を落ち着かせ、レオナルダを連れ生徒会室へ。
「レオナルダ」
「私は間違ったことなどしておりませんよ」
「……私はまだ何も言っていない」
「ペスカドール王子も、私が平民にキツク当たっていると思っているのでしょう?」
「私がいつそんな事を?」
「……ペスカドール王子も私をそのように思っているのでしょう? それで構いません」
「私が婚約者を噂で判断すると思っているのか?」
「……いえ、そんな事は……」
「あの平民がそんなに気になるのか?」
「あの方の行動は目に余ります。令嬢達も婚約者と親密過ぎて困っていると……」
「そうなのか?」
「ペスカドール王子にだって……名前で呼んでいたではありませんか? あれでは周囲が勘違いします」
「あの平民は、私の事をなんて呼んでいた?」
「名前で……」
「正確には?」
「……チェンゾ様と……」
「ん? 良く聞こえなかった」
「……ィンチェンゾ様……」
「ん?」
「ヴィンチェンゾ様っ」
「あぁ。レオナルダには、これからはそう呼んでほしいね」
「私がペスカドール王子を? そんな……」
「レオナルダは私の婚約者なんだ。それに私が許可している」
「……ヴィンチェンゾ様?」
「あぁ、今後は名前で呼ぶように」
「……はい」
名前を呼ぶだけで顔を赤くするレオナルダ。
彼女は高位貴族として相応しい振る舞いを心がけるあまり厳しくなりすぎるところがある。
実際は、恋愛小説が大好きな少女。
婚約者の名前を呼ぶことや、二人きりになるだけで緊張している。
周囲は知らない。
私だけが知っている、レオナルダ。
「それと……レオナルダ。今後はあの平民より、私を構うべきじゃないか?」
「ヴィン……チェン……ゾ……様……いけませんっ」
俺は彼女の唇を求めて距離を縮めるも、押しのけられる。
「どうして? 私の事嫌いだったのか?」
「私がヴィンチェンゾ様を嫌うなどありません」
「なら……」
「私達は婚約者です。婚姻前にその様な行為は許されません」
「ここでは誰も見ていない。私達が秘密にすれば、問題ない」
「それでも……いけません……」
「どうして?」
「か……神が、私達を見ています」
レオナルダは高潔。
そして純粋。
穢れを知らな過ぎて、穢したくなる。
「私は神を恐れたことは無い」
「何も恐れるものはないと?」
「いや、一つある」
「神よりもですか? それってなんですか?」
「レオナルダに拒絶されることだ」
「ぇ……」
「……レオナルダ」
再び、レオナルダの唇を求め距離を詰める。
今度は押しのける事は無いが、先程より顔を真っ赤に。
彼女の頬に触れゆっくり唇が重なる。
レオナルダの緊張が唇から伝わる。
触れるだけで満足できたのは一瞬。
深く触れたくなり、舌を割り込む。
「ぁっ」
レオナルダの小さな叫びを確認するも止まらない。
強引な私から逃れようと抵抗を見せるも、力が抜ける。
私を受け入れたのかと思ったが、遣り過ぎた。
急いで唇を離す。
「はぁはぁはぁはぁは」
潤んだ瞳で、私を見つめながら荒い呼吸を繰り返す。
彼女のそんな姿に、反省しなければと思うも再び唇を求めたくて堪らない。
艶めいた唇に吐息が漏れる度に興奮する。
「レオナルダ……」
「も……もう、いけませんっ」
レオナルダは立ち上がり、生徒会室から走り去る。
「……逃げられた……」
レオナルダを追うように生徒会室を出ると、多くの生徒が待ち構えていた。
事の発端である平民も。
礼儀知らずが一人でもいれば、正そうとするレオナルダ。
国民一人一人と向き会おうとする姿は好ましいが、私の事を後回しにするのはいただけない。
「レオナルダは今後、君に向かう事は無いだろう……また、レオナルダに何かされたらすぐに私に言ってくれ」
「はいっ」
この平民は私のレオナルダの関心を引く天才らしい。
だからと言って私より、平民を優先するのは許さないよ……レオナルダ。