ヒロインを選ばなかった攻略対象 王子の場合 前編
卒業パーティー。
「ヴィンチェンゾ様ぁ? どうしてレオナルダ様と一緒にいるの?」
「何を言っている? レオナルダは私の婚約者だ。エスコートするのは当然だろう?」
「えっ、でも……レオナルダ様は私に嫌がらせを……」
「嫌がらせ? 何のことだ?」
「ヴィンチェンゾ様も知ってるよね? 私がレオナルダ様に酷い事を言われたり、贈り物を処分されて、生徒会の仕事を邪魔されたりしたの……」
「そうか? 私の認識とは違うようだが」
「認識と違うって……ヴィンチェンゾ様も見てましたよね? 私が平民だから勘違いするなと言われたり、ヴィンチェンゾ様へ手作りしたお菓子をレオナルダ様に捨てられた事。それに生徒会での仕事中、用もなく私達の間に割り込み中断されたじゃない……どうしちゃったの?」
「イリーナ嬢にはそう見えていたのか……」
「そう見えて?」
「レオナルダ嬢の言葉は正しい。学園では身分関係なくというのを掲げているが、それは知識を学ぶ上で身分は関係ないという事だ。貴族は貴族で、平民は平民だ。最低限の礼儀を忘れてはいけない。レオナルダがイリーナ嬢に注意したのは至極真っ当な事だ。イリーナ嬢には伝わらなかったようだが」
「え? でっでも、お菓子を捨てるのはあんまりでしょ? レオナルダ様は、私を苦しめる為にしたんです」
「いや、レオナルダは私を守る為に行動してくれた」
「守る為? どうしてそんな風にレオナルダ様をよく受け入れようとするの?」
「平民のイリーナ嬢は知らないかもしれないが、貴族や王族は安易に食べ物を口にしたりしない。毒が混入している可能性があるからな」
「毒? 私がヴィンチェンゾ様に毒を盛ると?」
「私は過去に毒を盛られた過去がある。犯人は王宮で働く者だった。その事もあり、手作りなど王宮が手配した者以外からは口にしない事にしている。私がはっきりとイリーナ嬢に伝えられずにいたのをレオナルダが代わりに嫌われ役を買って出てくれたんだ」
「そう言ってくれたらいいのに、私の手を叩きクッキー全てを処分するなんて……酷いです。私、暴力を振るわれたんですよ」
「あの時イリーナ嬢は手作りクッキーを一つ掴み、私の口元まで差し出し強引に口に入れようとしただろう? 手掴みだなんて……あまりの無礼に身動き取れなかったのを、レオナルダが助けてくれたんだ」
「違う、違う、騙されないで。なら、どうして生徒会の仕事を邪魔したりしたのよっ?」
「イリーナ嬢があまりに密着するものだから、レオナルダが間に入ってくれたんだ。生徒会での仕事だが、勝手に役員と名乗り令息達に迫っていたと聞く。それだけじゃない、生徒会を理由にクラスや教師から割り当てられた仕事を放棄し押し付けていると被害を訴えている者が数名私のところに来た」
「えっ……それは……何かの勘違いでは? 私は生徒会役員と名乗ったりは……」
「見苦しい。それだけじゃない。君は貴族達の婚約を解消するよう勧めているようだな? 何が目的だ? 我が国を混乱させたかったのか?」
「ちがっ、そんなつもりは……皆……婚約の継続を悩んでいたから、相談に……」
「だとしても、平民の君が貴族の婚約に口を挟むべきではない。立場を弁えろ」
「……そんな……」
「今後、平民のイリーナ嬢とは関わる事は無いだろう」
イリーナ嬢を残し、パーティーを楽しむ。