ばら肉一つ。トゲは抜いてください。
短編2です。
ここは、銀河町商店街。どこか寂しい天井に、七夕模様がキラキラリ。夜更けに輝く店明かりは、宇宙に浮かぶ星のようにぽつんと灯っています。
「今日もまた、客は0名。」
肉屋を開いてちょうど4週間。昼に開いてみたらだーれもいない。ならばと、夜型が多いと思って18時に開店してもだーれもいない。フクロウの声も聴こえてくるのも魅力的な、森が近い商店街なのに。肉も新鮮、安全お手軽価格というのにだーれも来やしない。
店頭に飾った豚のブッター君にも申し訳がつかないな。
カランコロン。
扉の音に思わず体を震わせる。
「いらっしゃ~い。何かご入用ですか?」
見たところ、11,12の女の子のようだ。ふわふわもドレスに、ガラスの靴、キラキラのティアラ。豪奢な服だが、女の子はスレンダー気味だ。日付をまたぎかねない23時51分。不思議も不思議な、少女の存在。
そういえば、不動産屋がここは事故物件だなんて言っていた。怖いものは苦手なんだ。よしてほしい。
「ばら肉一つ。トゲは抜いてください。」
よくわからなかった。お嬢様だからこそのいたずらなのか。単に言い間違いなのか。しかし、彼女は毅然と
「ばら肉一つ。トゲは抜いてください。」
同じ言葉を繰り返した。そもそもトゲとはどういうことだろう。豚の皮は確かに毛がチクチクと刺さるが、ばら肉は肋周辺の肉なので関係ない。うんと考えても思い当たらない。
5分が経った。
「ここはハナ肉は無いのですか。」
少女は残念そうに溜息を吐いて言う。もちろん鼻はあるのだが、花はない。ただ薔薇肉っぽいものは用意できる。
「お嬢ちゃん。ここで待っててくれないかい?」
「申し訳ないですわ。24時までには帰らないといけませんの。」
「なーに大丈夫。銀河イチの肉の腕魅せてやるよ。」
そこからは1分たたなかった。立派な花束。いや、肉束が出来上がるまでは。ローストビーフを花のように盛る技を単にたくさんやっただけだ。けれども少女は笑顔で喜んでくれた。跳ねて、飛んで、ふわっと。そのまま地上に、王城へ。
「ありがとうございますわ!おじ様!」
そう言い残して去っていった。
お代…。いや、そんな野暮なことを言うのも憚られる。
そういえば、うちの国の王子様は肉好きなんだっけ。
『銀河1の肉の店。銀河肉店。
住所 銀河町1997-11-2
空の上からも銀河1の肉の味をお届けします。』
言葉遊びは面白いですよね。水心魚店みたいな変な店名が現実にあったらついよってしまいます。




