第五章 オカン、会議に参加する?
帝都での生活開始。
宿屋での朝食、トーストにスープにベーコンエッグにサラダ。シンプルではあるが美味しい。
「濃い玄米茶が飲みたいな」
「無い物ねだりはよそうよ」
食後の紅茶を飲んでいるオカンと真輔。味も香りも悪くなし。ただ、本音を言えば真輔も日本茶が飲みたい。
部屋のドアがノックされた。オカンが出てみると、宿の主人が立っていた。
「城からの使者が参られまして、城に来てほしいとのことです」
「うん、解った。すぐに行くと伝えてといてな」
今日、城で会議することは昨日のうちに伝えられている。
「解りました」
宿の主人は使者に返事を伝えに行く。
「ほな、準備しようか」
息子の目の前でも気にせず、寝巻を着替え始める。慣れている真輔は気にすることなく、自分の着替えを済ませた。
城の会議室に通されたオカンと真輔。皇帝のジョセフと皇女のシンシアに騎士団長のバーナード、大臣に貴族の代表者たちが円卓を囲んで座っていた。
一人の男が立ち上がり、
「初めまして、私は大臣のチャド・コーギー」
オカンと真輔に挨拶したが、頭を下げることはしなかった。貴族でないものに頭を下げることは彼のプライドが認められない。挨拶も皇帝と皇女を前にしての建前。
「ウチはオカンや」
「僕は西原真輔です」
大臣のプライドなんか気にも留めずにオカンは挨拶を返し、真輔は丁寧なお辞儀をした。
オカンと真輔が座ったところで会議開始。
「クロゴネンドとドドラームは魔族に占領されて日が浅く、そのために手薄である。今が奪還のチャンスだと考えます」
大臣のチャドが話始める。
「確かに、このまま手をこまねいていれば、戦力が増強されて取り返すことが困難になってしまう」
貴族の一人が同意を示す。
斥候の調査によって魔王軍に滅ぼされたクロゴネンドとドドラームに魔族が住み着き、着々と拠点づくりに勤しんでい、ラティストアン帝国だけではない人間の国全てを攻め滅ぼすための拠点を。
新たなる拠点の完成は脅威以外の何物でもない。
「まずは帝都に近いクロゴネンドからだな」
一人の貴族が発言した。
帝国側の最大戦力はオカン。しかし、オカンは一人しかいない。クロゴネンドとドドラームを奪回するにしても同時には無理。
貴族たちにしてみれば帝都に近いクロゴネンドに居座る魔族の方が脅威なのだ。
「オカンさんと私が率いる騎士団でクロゴネンドを取り戻します」
とバーナードが話す中、戦力の中心となるオカンは寝落ちしていた、誰にでも解る程の大いびきをかいて。
真剣な会議中の居眠り、貴族たちからの白い目も致し方なし。
傍にいた貴族がオカンを起こそうとしたのだが、
「後で僕が話しておきますので」
真輔が止めた。起こしたところで、五分もすればまた寝る。これではいたちごっこにしかならない。
後々、かいつまんで話すのが正解。息子である真輔は深くそののことを理解していた。
「本当に信用していいのか……」
不安を口にする貴族もいたが、
「彼女の力は私が保障いたします。ナンピヘ村の村人たちの証言もさることながら、私自身目の当たりしました」
魔王軍の生き残りを手刀の一撃で仕留めたパワー。直接、目の当たりにしていない貴族たちもバーナードの証言は信用出来た。平民ながら実力で騎士団長まで上り詰めた男なのだから。大臣だけが気に食わなそうな顔をしていても皇帝と皇女の手前、文句は言えず。
会議が終わってみんな帰った後、やっと起きたオカンに真輔は会議の内容をかいつまんで話した。
「うん、解った。悪い奴らをいてまえばええんやろ」
その通りではあるのだが、長かった会議の内容を簡潔し過ぎの理解。真輔の方もそれだけ理解できれば十分だと。どうせ、長く話したところで聞き流すだけ。
寝ていても参加したことになるのかな……。